南相馬市にあるコンビニ……そこは時間が止まったままだった相場英雄の時事日想・南相馬編(2)(3/6 ページ)

» 2012年05月31日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

あと7.5キロ

 喉の渇きを堪えながら、運転席に戻った。

 車中で煙草をふかす。鼻の奥に残った異臭を煙でぼかそうと思った。だが、異様な臭気は一向に鼻の奥から離れなかった。

 ガムを口に放り込み、カーステレオにつないだiTunesを操作した。20キロの外側、のどかな風景の中を走っていたときは、ジェフ・ベックのエッジの効いた曲をかけていた。刺激の強い光景ばかり目にしてきたため、せめてBGMくらいは穏やかな音が欲しい。私は自然とスティングのコレクションを再生し、運転を再開した。

 6号線を走る車両の大半は「福島」、あるいは「いわき」ナンバーだ。上り下り車線ともに自宅に向かう地元の人たち、あるいはその親戚とおぼしき人たちだ。

 ゆったりとしたクルマの流れに自家用車を合わせていると、谷間の直線道路にたどり着いた。前方にパトライトが光っている。

 検問だ。

 減速し、遠い地点で写真を撮った。地元ナンバーばかりのクルマの流れに、練馬ナンバーは明らかに不審だ。運転しているのはサングラスをかけた髭面の中年男。問答無用で撮影を禁じられると思った。二度シャッターを切ったあと、ゆっくりと検問所に入った。

 「通行許可証をお持ちですか?」

 胸元に栃木県警と描かれた機動隊服を着た若い警官に尋ねられた。持っていない旨を伝えると、即座にUターンを命じられた。

 「ここは福一まで何キロの地点ですか?」

 「たしか……7.5キロです」

 若い隊員が自信なさげに答えた。

検問ポイント

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