「入社2年目の若者」が新型水着を開発、どのように?窪田順生の時事日想(3/4 ページ)

» 2012年06月19日 08時06分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

肉体にできた抵抗を減らすこと

 森さんがまず始めたのは、とにかく自分自身が試すということだった。

 「僕自身が水泳に詳しくなかったので、まずは他社の水着も含めて自分で着てみて、いろいろな動作を分析してみました。そこであることに気づいたんです」

 それは足にあらわれる“波”だ。みなさんもプールで試すといいが、バタ足でもカエル足でも、キックをすると脂肪がブルブルと揺れる。これは振動学では「フルッタリング」と呼ばれるものだ。そんなの当たり前じゃん、と思われるかもしれないが、森さんはそこに着目した。

 水中では些細な出っ張りが抵抗となって推進力を落とす。ゼロコンマ1秒を争う世界ではかなり大きな抵抗だ。ということは逆に、一流スイマーの腿の“揺れ”をおさえれば、さらにパフォーマンスを引き出すことができるのでは。

 しかし、問題はどうやってということだった。自分で水中キックをしている動作を撮影し、その映像を再生。何度も繰り返して見ているうちに、森さんは“揺れ”にある法則があることを発見する。

 足先からふくらはぎ、膝から腿、そして臀部……脂肪の揺れはまさしく“波”のように伝播していた。それは見ようによっては、震源地から広がる地震のようにも見えた。

 その時、森さんにあるアイディアがひらめく。

 「だったら間に柔らかい素材を入れたらどうだろうと考えました。(建物の)免震構造でも下に緩衝剤があると上にのっている建物は揺れない」

 腿のあたりの糸を変えて、柔らかい素材を入れてみると、“波”は大幅に減った。つまり、肉体にできた抵抗を減らすことに成功したのだ。

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