ビジネス書+ライトノベル=“ビジネスライトノベル”の誕生ビジネスノベル新世紀(4/4 ページ)

» 2012年08月24日 08時00分 公開
[渡辺聡,Business Media 誠]
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ライトノベルのビジネス書化

 経済小説という形でビジネス系テーマを取り込む動きが一般小説やミステリー小説で起きてきた流れは前回、簡単にまとめました。似たような動きはライトノベル側でも起きています。

 書き手読み手ともに若い層が多かったことから、ライトノベルで本格的なビジネスものはあまり出てこなかったのですが、読者層が20〜30代に移ってきたからか、ビジネスをテーマにした作品が目立つようになってきました。ビジネス書のライトノベル化とは逆方向から起きた、ライトノベルのビジネス書化です。

 内容は次回紹介することにして、これも今回は表紙の雰囲気だけ比較してみましょう。

 まずは金融関係者からの評価も高いという『羽月莉音の帝国』。1巻、2巻ともに女子高生がポーズをとっています。

 この表紙でビジネスに絡む内容とは誰も想像できないでしょうが、資金調達から会社設立に事業開発、提携にM&Aと、企業進化のプロセスをしっかり描いている佳作です。「巻末に参考文献がついているライトノベルなんて初めて読んだ」「マフィアとビジネスの関係とかいい勉強になりました」など一般小説でもあまり見ないタイプの感想が散見されます。

『羽月莉音の帝国』(左)、『羽月莉音の帝国 2』(右)

 次に、エンジニア小説というだけでも珍しい『なれる!SE』です。表紙のキャラクターは中学生くらいの女の子にしか見えませんが、なんと主人公の上司という設定だそうでびっくりです。「こんな上司がいたら」という読者願望を反映させたのでしょうか。

『なれる!SE』

 前回、業界の“中の人”が書き手となったことで、経済小説が実務的な内容にシフトしたという話をしました。ライトノベルでビジネス系小説が成立するのは、本業を別に持っている兼業作家が多いことも一因ではないかと思います。

 『羽月莉音の帝国』の作者である至道流星氏は、とある会社の社長をやっているそうです。ビジネスに限らず、現場の雰囲気というものは、やはり現場に立ち会った人でしか分かりにくい部分があります。取材しても、必ずしも描けるとは限らないものです。

 その点、兼業で書いている人は普段仕事をしているわけなので、自分の日常を小説の舞台にできます。上司に怒られた悔しさから、プロジェクトが失敗した絶望感、遠くの方から聞こえてくる華々しい噂まで、上手く物語の形に載せられれば新しい話が仕上がります。

 また、読み手も少なからず職業人がいるとなると、新しい共感の形が生まれることとなります。マンガ家が学生時代に打ち込んだクラブ活動を題材に漫画を描く、子どもが生まれたので子育てマンガを描くというパターンが良くあることを思うと、兼業作家の増加とビジネス小説の増加が同時に起きるのは自然な流れと言えるでしょう。

 歴史上のできごとや特殊な事件ではなく、作者が直接に経験したことをテーマにした小説は私小説と呼ばれます。最近のビジネスノベル、特にビジネスライトノベルは、身近な日常のお仕事を素材にした“ビジネスライト私小説”と言えるのかもしれませんね。

 次回は、前回今回のトレンド整理を踏まえて、具体的な作品構成や特徴についてまとめます(第3回「“読みやすい”だけじゃない! ビジネスノベルを知るための7作品」に続く)。

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