検証する前にすべきことはないのか iPS細胞の誤報記事相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2012年10月25日 08時01分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

 当日判明したのは、時事が特ダネの根拠として重要視した「政界関係筋」という情報ソースだ。一般の読者ならば「政界関係筋」が首相に同行した官僚、あるいは政治家を指すと判断するかもしれない。だが、記事が配信された当初から身内の記者たちの間で、このソースが誰を指すのか疑問視されていたのだ。平たくいえば、あやふや、うさん臭い感じがしたのだ。

 本来ならば官邸中枢の副官房長官や官房長官を指す「政府筋」、あるいは「政府首脳」と表記されるところが、「政界関係筋」という初めて目にする表記だったからだ。

 先輩記者が炙り出したのは、この政界関係筋なる人物が時事のOBであり、当時の政治部長らの大先輩に当たる人物だった。また現場記者が「拉致被害者の一時帰国」に関する情報を強く否定していたにも関わらず、社の編集幹部連が配信をゴリ押しした形跡も判明した。

 チェック機能以前の軽卒な行動であり、誤報配信事件以降、私を含めた多くの記者たちが取材で肩身の狭い思いを強いられたのは言うまでもない。

置き去りにされた読者

 本稿を書くにあたり、当時の組合報などをチェックしてみると、時事が契約社に出した報告や謝罪はいくつか出てきた。だが、肝心の文書や記述は見当たらない。肝心の文書とは、当時実名で日本に一時帰国すると触れた拉致被害者の方々、そして日本で帰還を待ちわびていた家族に向けた真摯(しんし)な謝罪だ。

 10年前、時事の誤報が確定する段になって、多くの現場記者たちの間で話題になったのもこの点だ。あやふやなソースから得た情報で、当事者である拉致被害者とそのご家族にどう謝罪するかという点だ。当時、社の上層部が責任問題や対外的な対応で混乱を極める中、この一点を真摯に考えた幹部がいたようには、現場記者の立場からは見えなかった。

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