なぜルーカスフィルムを買収したのか、“放送事業者”としてのディズニーアニメビジネスの今(2/4 ページ)

» 2012年12月04日 08時00分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

悲願だった放送局買収

 1つ目の放送網から見ていこう。これは1995年にABC以下の放送網を買収したことに尽きる。買収価格は190億ドルと言われているが、当時は1ドル=約108円だったので2兆円以上の買い物であった。

 ディズニーが放送局を持ちたがっていたのは、中興の祖となったマイケル・アイズナーが1984年にパラマウントから移籍して以来のこと(同氏は2004年までCEOを務める)。米国三大ネットワークのNBC、CBS、ABCのすべてに在籍した経験のあるアイズナーにとって、テレビ局を持つことは自明の行動であったようだ。

 実は1985年にすでにアイズナーはNBC、CBSを買収しようとしていたが、うまくいかなかった。そこから雌伏10年でABCの買収に至ったのは、放送網のニーズが一層高まり、また買収しやすい環境も整ったからであった。

 前者の放送網のニーズが高まったことについては、ビデオ市場の成長や放送の多チャンネル化時代の訪れによって映画コンテンツの需要が高まったことが挙げられる。同時に収益手法の多様化によって映画の総収益に占める興行収入の割合が低下、ディズニーを始めとするハリウッドのメジャー各社は家庭に直接コンテンツを送る必要性に迫られたのである。

 ビデオについては各社が自身のブランドを設立すれば済む話だが、放送網はそういうわけにはいかない。その当時の状況だと、テレビ局を買収するか、規制緩和によって放送と通信の壁がなくなった通信会社と合併するくらいしか選択肢はなかった。ディズニーが前者の地上波ネットワークを買収することを選んだのは、放送生態系のトップを支配できれば、それ以外の地方放送局やCATVにコンテンツが自動的に流通するようになると判断したからである。

 後者の買収しやすい環境については、1990年代に入ってから実施されたメディアの規制緩和による部分が大きい。かつて地上波ネットワークは定められた時間以上番組を製作できず、その番組を地方放送局で流す際に制限がかけられるという厳しい規制があった。しかし、地上波ネットワークが地方放送局にテレビ番組を販売することが次第に認められるようになった。

 その後、規制はさらに緩和し、メディアの合併・買収の制限もほとんどなくなったことで、ハリウッドのスタジオを中心に大型の垂直統合が始まった。ディズニーもそれに乗り遅れることなく、ケーブルテレビに強い基盤を持ち、海外にも強かったABCをキャピタル・シティーズから買収したのである。

ディズニーは放送局?

 事業部門別売上を見ると、ディズニーは放送事業会社と言える。1995年に取得したABCを始めとして、今ではESPN、ディズニーチャンネル、A&E Television Networksを所有する一大メディアグループとなっており、売り上げの45.8%を放送事業が占めている。2005年に就任したボブ・アイガーCEOもABC出身だ。

2011年ディズニー部門別売上比率(「WDC 10-K 2011 Annual Report」より)

 もともとアニメーションスタジオとして誕生したディズニー。収益の中心はスタジオ(映画などのコンテンツ製作やビデオ販売)、コンシューマー・プロダクツ(キャラクターライセンスや商品販売)、ディズニーランドだったが、1994年からメディア・ネットワークの収益が加わる。それが急成長を遂げ、1997年には早くも事業部門別1位となり、今では収入の半分を占める大黒柱になったのである。

2011年ディズニー事業部門別売上(「WDC 10-K 2011 Annual Report」より)

事業部門 売り上げ 内わけ
メディア・ネットワーク 187億1000万ドル ABC、ESPN、ディズニーチャンネルなど
ディズニーランド(パーク&リゾート) 118億ドル ディズニーランド、ホテルなど
スタジオ・エンタテインメント 63億5000万ドル 映画、テレビ番組などの製作
コンシューマー・プロダクツ 30億5000万ドル ライセンス、ディズニーストアーなど
インタラクティブ・メディア・グループ 9億8000万ドル Disney.com、ESPN.com、ABC.comなど
売上合計 408億9000万ドル  

 日本のテレビ局と異なり、次表のようにディズニーの放送事業が伸びているのは国際的な放送市場を持っているからだろう。ディズニーチャンネルは167カ国35言語に対応している。

 インターネットの時代と言われて久しいが、放送事業は先進国での需要は飽和ぎみになっているものの、アジアなどの新興国で放送広告市場、放送視聴市場はまだ成長分野で、今後も大きな発展が見込まれている。従って、ディズニーのネットワーク網もそれとともに拡大するのは間違いない。ディズニーランド以外の売り上げが横ばい傾向にある中で著しい成長を遂げている放送部門は、今後もディズニーの中核事業として位置付けられるだろう。

ディズニー部門別売上伸張率(単位:100万ドル。ディズニー決算書より筆者作成。インタラクティブ・メディア・グループの売上記載は2001〜2008年はなかった)

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