バラク・オバマの就任演説と組織論(1/2 ページ)

» 2013年01月25日 08時00分 公開
[石塚しのぶ,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:石塚しのぶ

ダイナ・サーチ、インク代表取締役。1972年南カリフォルニア大学修士課程卒業。米国企業で職歴を積んだ後、1982年にダイナ・サーチ、インクを設立。以来、ロサンゼルスを拠点に、日米間ビジネスのコンサルティング業に従事している。著書に「『顧客』の時代がやってきた!『売れる仕組み』に革命が起きる(インプレス・コミュニケーションズ)」「ザッポスの奇跡 改訂版(廣済堂)」がある。


 バラク・オバマの演説はすばらしい。情熱的であり、何より自然体で、聴衆の心をつかむのにかけてはまったく達人だ。

 私は日本人として長年、米国に住んでいる。仕事柄、日本と米国という2つの国を行き来しつつ生活しているおかげで、どちらの国を見るにつけても、一歩引いて、まるで外国人のような感覚で見る癖が付いている。1月21日の朝も、首都ワシントンDCで行われた就任式の演説を聴いていて、米国という国の本質を垣間見るような気持ちがしてはっとさせられた。

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 それは演説の冒頭に来る。オバマが、「米国民を団結させるものは」と語るところだ。

 オバマはまず、「米国民を団結させるものは、肌の色でも、信仰でも、名前の由来でもない」と言う。ご存じのように、米国という国は、「人種のるつぼ」や「サラダボウル」という言葉に象徴されるように、さまざまな人種や宗教、民族が共存している。日本のような国と違って、これらの要素が米国民を定義するものではないということである。

 そして、オバマは米国民を団結させるものは、むしろある「理念」に対する忠誠だという。独立を巡ってこの国が英国と戦った時に、その宣言の中に明記された「理念」である。

 その理念とは「すべての人間は生まれながらにして平等であり、生命、自由、そして幸福の追求は、創造主により授けられた不可侵の権利である」というものだ。

 建国の際に、平等という基本原則のもとに、生きる権利、自由である権利、幸福を追求する権利ということを共通の価値観として打ち立てたこと、それが、200年以上経った今でも、この国民の本質として根強く生き続けているように思う。

 独立戦争が戦われた時、米国というところはすでにさまざまな人種や宗教が混在するところだった。13の植民地(今日でいえば「州」)は、性格もイデオロギーもまるでばらばらの異国のようだった。英国への対応を話し合う議会が結成された時にも、各植民地の代表を一定の期間中に、同じ場所に集めるのは困難を極めた。後に大統領になったワシントンが率いた「軍隊」も寄せ集めのもので、任期が終わるとみんなそそくさと植民地に帰ってしまったという。戦争を続行するために、ワシントン自ら兵士たちにもう少し我慢してもらうよう懇願しなければならなかったらしい。

 そもそも、独立宣言までは「米国」というアイデンティティは存在しなかったのだ。独立後設立された政府も、発足の張本人たちが「2年ももたないかもしれない」と危ぶむほど不安定なものであったことが記録に残っている。だから「国」として人々の心を束ねるためには、「中核」となる価値観が必要だった。

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