「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
円は安くなり、株は高くなる。3月末決算を控えて気分は明るい。まさに景気は「気」からということだろう。アベノミクスとはいえ、まだ具体的に動いているものは何もない。10兆円を超える大型補正予算も来年度予算も国会で決まるのはこれからだ。日銀がインフレターゲットを2%にしたということと、それに向けて無制限に資産買い入れを行うことは決まったが、具体的に何かをしたわけではない(浜田宏一先生流に言えば、決意を示すことで期待が生じればそれで動くということなのだろう)。
日本だけではない。米国もさまざまな指標を見る限り、雇用も含めて緩やかながら着実に回復している。政府の債務上限問題はあるが、それも一応5月まで先送りした。歳出カットをどうするかという問題はあるにしても、景気と雇用の回復が明らかになればなるほど、共和党もオバマ大統領の経済政策に反対しにくくなる。
そして、欧州も最悪期は脱したと言えるのだろう。10年物国債の利回りが「危険水域」にあったイタリアやスペインも、ドイツ国債に上乗せする金利が最悪期の半分になった。つまりこれらの国は資金調達のコストが軽くなったということだ。もちろん国の信用度が上がれば、スペインの銀行の信用度もそれに伴って上がってくる。
中国は昨年秋から購買担当者指数が50を上回るなど製造業を中心に回復が始まっていた。内需の高まりはまだ十分とは言えないにしても、米国の回復基調は、中国企業にとって朗報に違いない。中国だけでなく、インドやASEAN(東南アジア諸国連合)も同じことだ。昨年は成長率が落ち込んだところも今年は高まるはずだ。
ただ、IMF(国際通貨基金)が今年1月23日に発表したWorld Economic Outlookのアップデート版によれば、今年の成長率は米国で2%、日本が1.2%、英国が1.0%、そしてユーロ圏がマイナス0.2%(ドイツは0.6%、フランスが0.3%、イタリアがマイナス1%と先進国の明るいとは言えない数字が並んでいる。
日本に関して言えば、10兆円を超える補正予算がある(GDPで言えば2%にあたる)のだから1.2%という見通しが小さすぎるだろう。IMFが数字を見直した時には、まだアベノミクスの内容は分かっていなかったはずだ。もちろん米国の「財政の崖」がどのような影響を及ぼすかも不透明だったはずで、その意味では昨年10月の見通しを大きく切り下げた今回のアップデートは慎重になりすぎかもしれない。
慎重な見方にも根拠がないわけではない。FT紙のマーティン・ウルフ記者によれば、四半期ごとのGDPが2008年のリーマンショック以前の水準を超えたのは米国とドイツだけ、フランス、日本、英国、イタリアはそこまで戻っていない。その間、多くの国は巨額の債務を抱えるようになっている。英国は財政再建のために緊縮政策を採っているが、そのために経済は三番底に陥るかもしれない状況にある。
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