シンガポールの首相が中国を小馬鹿にした夜伊吹太歩の世界の歩き方(3/4 ページ)

» 2013年04月11日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

“一党独裁の管理国家”体制が揺らいでいる

 今どき、首相の公式スピーチは政府系サイトなどにその全文が掲載される。だが「豚スープ」発言は、シンガポール総理府のサイトに掲載されたスピーチ原稿からカットされている。発言がなかったことになっているのだ。

 すでに報じられているスピーチの不都合な発言を削除するなんていうのはあまりにあからさまで、大人げない。だがこれこそが、シンガポールという国家を如実に表しているといえる。

 不適切だと思われることは排除する、禁止する。未来都市のようなきれいな街にカジノやホテル、ユニバーサルスタジオがあり、F1レースまで開催される観光地という日本人が抱くシンガポールのイメージからは想像できないかもしれない。

 シンガポールの与党、人民行動党は、独裁的ともとれる管理体制で、1965年の独立以来ずっと与党の地位を確保してきた。一党独裁をずっと維持してきたのだ。人民行動党は、建国の父でもあるリー・クワンユーが設立した政党で、リー首相は、リー・クワンユーの息子。現政府は、世襲政権だ。

 だがその一党独裁も最近危うくなっている。2011年の総選挙で史上初の「敗北」を喫し、国内の風向きが変わっている。ただこの傾向は意外でもなんでもない。国民の中にはずっと独裁体制に辟易(へきえき)してきた人が多いからだ。

 管理体制の中で暮らしてきた国民の間では、例えば、投票用紙も管理されているため野党に投票したら政府から目を付けられるかもしれないというような「空気」がこれまでずっとあった(政府が、誰が誰に投票したかを実際にチェックしているような確たる証拠はないが)。ただ「身内に公務員がいるからバレる」「よからぬ事態になったら困る」と考えて野党に投票できないというシンガポール人は非常に多い。

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