なぜJR北海道でトラブルが続くのか杉山淳一の時事日想(6/7 ページ)

» 2013年07月26日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

(3)マニュアルを覚えない、参照しない

 これは現場の整備士に問題がある……とは一概にいえない。もちろん手抜きの場合がほとんどだろうけれど、作業に必要な時間がない場合も同様だ。いちいちマニュアルを見る暇はない。うろ覚えの手順で作業する。すなわち見落としが発生する。

 鉄道の場合、時間がない理由は主に2つ。「運用車両が少なく、回転率を高めるために整備時間が短縮される」「人員不足のために1人当たりの作業量が多い」だ。JR北海道の場合、残念ながらどちらも該当する。財政的に車両の新造は抑えられ、多客期は増発でフル稼働。一方、社員はJR北海道発足時より半減している。いままでうまくいっていたマニュアルでも、環境が変われば守られない。

(4)1人くらいマニュアルを守らなくても……と考える

 これは整備士側の問題だ。職場の雰囲気の問題もあるだろう。本来は、誰かがマニュアルに沿わなかった場合、二重チェックが定められている。しかし、その二重チェックに甘えてしまう。自分が怠っても、誰が気づいてくれる……という安心感が生まれるからだ。共同作業でもありがちで、チームで影響力が大きい人がこの考え方を持つと、全体的に意識が甘くなる。

 本来はその逆で、マニュアルを守らない人をきちんと指導し、お互いに注意を喚起しあう環境づくりが望ましい。多少は後味が悪くても、間違いを指摘するような習慣が必要だ。そのためには、チーム全員が「なぜマニュアルを守らなくてはいけないか」「マニュアルを守らないと、どんな危険があるか」を認識する必要がある。共通の目的を認識すれば、ミスを指摘されても素直に受け入れられる。

マニュアル通りでも事故が起きる?

 吉田教授は「マニュアルが正しい」という前提で著されている。しかし、鉄道の現場ではもうひとつ、事故につながる理由がある。

(5)マニュアルそのものが間違っている

 マニュアルが間違っていれば、マニュアル通りに作業をしても事故が起きる。JR北海道の場合、マニュアルで定められた部品交換期間を遵守していたにも拘わらず、部品が破損していた可能性がある。2001年に国土交通省がディーゼル車について、検査期間の規制緩和を実施しているからだ。

 規制緩和前は、エンジン、ブレーキなどの重要部について「3年(新車は4年)以内、または走行距離が25万キロメートル以内の短いほうで検査を実施する」としていた。しかしこれが「4年以内、または走行距離が50万キロメートル以内の短いほうで検査を実施する(ただし旧式は25年以内)」となった。全般検査の周期も「6年(新車は7年)」から「8年」に延長されている(参照リンク)

 JR北海道が作成した整備マニュアルは、おそらくこの規制緩和を反映させたものだろう。これが適切か、列車あたりの運行距離が長いJR北海道の特性に合致していたかについても精査の必要がある。

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