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» 2015年01月30日 10時00分 公開

新型マツダ・デミオが売れた3つの理由池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

[池田直渡,Business Media 誠]

理由3:ステップダウンに対応した新時代のパッケージデザイン

 自動車先進国日本では、小型車への要求が変わりつつある。かつて「いつかはクラウン」という言葉とともに、買い替えのたびに大型の高級車へステップアップしていくのが当たり前の時代があったが、いまはステップダウンの時代がやってきている。それは軽自動車の売れ行きを見ても明らかだ。

 そうなると問題となるのはクルマの空間と質感だ。大きく高級なクルマからステップダウンしてくるユーザーは目が肥えている。そうしたユーザーを満足させるだけの空間と質感を備えなければステップダウンの乗り換え需要を獲得できない。

 幸い、新型デミオではエンジン、トランスミッション、シャシーの全てが新規起こしとなる。マツダはフロントホイールの位置を前へ押し出すレイアウトを考えた。

 小型車の場合、運転席のペダル位置を決めるのは前輪の位置だ。輸入車の一部がいまだにそうであるように、ペダルをまとめて左へオフセットさせてしまえば前輪の影響を減らすことができるが、そんなことをすればドライバーの姿勢に負担をかけ、快適性が著しく損なわれることになる。限られたスペースの中で広い空間を実現するには、この邪魔な前輪を何とかして前へ押し出したい。

デミオの運転ポジション。足下の空間を中心に、ステップダウンしてくるユーザーのニーズに対応を図り室内空間の充実を図った(出典:マツダ)

 ところが、前輪はそうそう自由に動かせるものではない。前輪の位置はパワートレーン(エンジン/ミッション)によって決められる。そしてパワートレーンは一度開発されたら改良を加えながら数十年にわたって使われるのが普通だ。これらのグランドデザインをゼロスタートで考えられるタイミングはそうそうない。例えばデミオのこの設計を見て「その手があったか」と考えるメーカーがあっても、パワートレーン刷新のタイミングが来るまでは指をくわえて見ているほかない。ステップダウン時代の到来と同時にそういうチャンスがやってきたのは、もはや運としか言いようがない。

デミオの透視図。エンジン、トランスミッション、シャシーの全てが新規デザインであったことにより、前輪の位置を前方へ押しやることに成功した(出典:マツダ)

 その結果デミオは広々とした足下空間の実現に成功する。確かに運はあるのだが、さらに「前席優先コンセプト」を持ちだしたのはエンジニアの卓見だ。Bセグメントのクルマはもともと欲張った設計ができない。「前席と後席の空間を高い次元で両立する」などと言いだしたところで、外寸はおのずと制限があり、どちらも中途半端になるだけだ。

 「リアシートは割り切る」。そうと決まれば話は早い。スペースだけでなくコストもフロントシートに優先して回すことにした。一般に、シートは座面と背もたれではウレタンのコストが違うものだ。長時間体重を受け止め続ける座面は、耐久性を考えるとどうしても高価なウレタンを使わざるを得ない。一方でそこまでの要求を求められない背もたれはコスト面で有利なウレタン材が使われるのである。

 デミオでは前席優先のコンセプトの下で、座面用の高価なウレタンを背もたれに採用した。リアシートは前モデルと同等であれば良しと割り切ったことで、これまでのBセグメントにはなかった、高い質感のシートが実現できたのである。

デミオの前席後席。「前席優先」という明確なコンセプトの下、スペース、コストとも優先的に配分された前席シートは質感が高い(出典:マツダ)

 こうして3つのポイントを振りかえると、自動車先進国日本の今に相応しいBセグメントに向けて、新型デミオはすべての流れがうまくシンクロしていることが分かる。

 運と実力が調和したという意味でもそれは一つの奇跡だと思う。マツダ自身がどんなに頑張ってもそれは二度も三度も起きることではないだろう。ただひとつ言えるのは、やるべきことをやってなければ奇跡は起きないと言うことだ。

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