ドイツと日本、再生可能エネルギーの“差”:藤田正美の時事日想
先進国を中心に再生可能エネルギーによる発電能力は高くなっているが、中でも最も利用が進んでいるのがドイツだ。ドイツの太陽光発電などによる発電能力に比べ、日本は3分の1以下。なぜ両国の間で、ここまで“開き”が出たのだろうか?
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
政策シンクタンクである再生エネルギー政策ネットワークによれば、世界の再生可能エネルギーによる発電能力は、2億4000万キロワットに達したという(関連記事)。2004年に比べると50%も増加した。世界の発電能力に占める割合は5%、実際の発電量に占める割合は3.4%だという。
2008年7月に開かれる洞爺湖サミット。福田首相は何としてもこのサミットを自分の手で成功させたい意向だ。しかし、日本が世界の温暖化ガス削減に向けてリーダーシップを発揮できるほど熱心に取り組んでいるとは言い難い。2008年から2012年を目指して1990年レベルよりも6%も温暖化ガスを削減しなければならないのに、少なくとも現時点では温暖化ガスの排出量は増えている。
世界で最も再生可能エネルギーの利用が進むドイツ
世界で最も再生可能エネルギーの利用が進んでいるのはドイツだ。風力発電や太陽光発電、バイオマスなどによる発電能力は、2500万キロワットを超えるという。ざっと原発25基分である。それに比べると、日本は700万キロワットほどに過ぎない。
再生可能エネルギーの最大の問題点は、化石燃料と比べるとコスト的に太刀打ちできないことだ。言葉を換えれば、“成り行き”では絶対に普及しない。例えば我が家の場合、太陽光発電のパネルを設置して売電することが可能になっても、設置コストを回収するには約20年かかるという計算になった。
だから再生可能エネルギーを普及させるには、国などの補助金がどうしても必要だということになる。ドイツではそのおかげで、太陽電池産業が急成長中だ。エコノミスト誌(4月5日号)によれば、Qセルズという会社は2007年、日本のシャープを抜いて世界最大の太陽電池メーカーとなった。そしてドイツは、中国、日本に次いで第3位のソーラーパネル生産国となったという。
2008年3月12日に発表されたドイツの環境省のリポートでは、2007年の再生可能エネルギーは、全エネルギー消費の6.7%を占めた。2006年は5.5%、2003年は3.5%だから、急速に存在感を増している。さらに再生エネルギー関連産業の売上は、329億ドル(約3兆3000億円)、2000年に比べると4倍になった。総発電量に占める再生可能エネルギーによる発電量は14.2%、2006年は11.7%なので大幅に伸びたことになる(昨年は風が強かったことも幸いしたそうだ)。ドイツはすでにEU(欧州連合)の国別目標(12.5%)を達成したということだ。
再生可能エネルギーの挑戦よって、新たな産業や会社を育んだ
最もこれで万々歳というわけではない。これだけ再生可能エネルギーによる発電量が多いということは、電力料金をあげざるを得なくなることを意味する。ドイツの場合、電力会社は太陽電池によって家庭などが発電した電力を通常の卸売り価格の7倍で買うことが義務付けられている。それは消費者に転嫁されることになり、典型的な家庭では電力料金は5%高くなったという。
太陽光発電のコストは、やがては化石燃料や原子力発電と肩を並べるぐらいになるのか。少なくとも現時点で、その可能性がはっきりと見えているわけではない。財政的にいつまでも補助金を出して、かつ消費者に高いエネルギーコストを支払わせる政策が続けられるわけではない。
しかしこういったドイツの挑戦が、場合によっては新しい産業や会社を育てることにもつながるのは確かである。日本は暫定税率がなくなったことでガソリン価格がリッター25円前後安くなった。これで失う税収は年間2兆6000億円。この資金を道路に使うのではなく、本来はドイツのような再生可能エネルギーの開発に使うという決断をさっさとしていれば、洞爺湖サミットで福田首相も胸を張れたかもしない。
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