古都に受け入れられたカーシェアリング――写真で見る京都のプチレンタ:神尾寿の時事日想・特別編(2/2 ページ)
レンタカーよりも短時間の貸し出しを行うカーシェアリング。首都圏や名古屋で普及が進んでいるが、古都・京都でもサービスが始まった。京都ならではの事情によって課題もあるが、クルマ依存から脱却した街作りができるかもしれない。
一方通行や路地を配慮してステーションを配置
京都のステーションは中心部にまとまって配置されており、JRや地下鉄の駅の隣はもちろん、住宅街にも多い。レンタカーのような専用店舗ではなく、そのほとんどが民間駐車場の一部を借りてクルマを置いている。プチレンタではFeliCaカードで認証をし、クルマの管理はセンターと通信して行うテレマティクス型。完全無人化が実現しているので、駐車場さえ確保すればステーション化ができる。
興味深かったのは、住宅街などではかなり近接して複数のステーションがあったことだ。1台ずつ複数の場所に設置するくらいならば、1カ所にまとめた方がよいと思うが、これにも京都ならではの事情がある。
「京都の市街地は狭い路地が多くて、一方通行ばかりなんです。古い建物や文化財もあって道路の拡幅も難しい。ですから、お客様が『今日はどちらの方面に行くか』で、(一方通行に合わせて)進行方向に出やすいステーションを選べるように配置しているのです」
また、1台分ずつだとステーション用の駐車場が確保しやすいという理由もある。カーシェアリングが京都の土地柄に合っているとはいえ、まだ始まったばかりのサービスで、認知度はまだ低い。そのような中で最も苦労しているのが、ステーション用の駐車場確保である。
「駐車場そのものの数が少ないですから、そこからステーション用のスペースを確保するのがとても大変。駐車場オーナーの理解と協力を得るのが難しいのです」
今後は行政の遊休地や公共駐車場の活用なども考えたいとのことだが、後者には別の問題もある。
「実は京都の中心部には、1000台規模の公共駐車場(京都市御池駐車場)があるのですけれど、そこは地下なのでドコモの電波が入らないのです。プチレンタでは車両管理に(NTTドコモの)通信モジュールを使っていますから、電波が入りにくい地下駐車場だとステーションにできない。
このほかにも京都は景観条例が厳しいので、ステーションの位置を示す看板が掲げられません。ですから、ステーションがどこにあるのかアピールしにくいという課題もあります」
このように課題はあるものの、ステーション増加に対する期待は大きい。
「既存のお客様はもちろん、イベントなどで(プチレンタを)知っていただいた方からも『ステーションを増やしてほしい』という声をいただいています。お客様の中には、(家から離れた)ステーションまで自転車を使ってまでプチレンタをお使いいただいている方もいます。ステーションの土地確保を頑張っていかないといけない」
日本のパリ・京都が「交通先進都市」の先駆けになるか
取材中、北山さんがふと「京都人のメンタリティって、フランスの人たちに似ているんじゃないかと思うんです」とつぶやいた。変わることより、守ることを大切にする。良くも悪くも、新しいモノやコトに飛びつかない。しかし、両者の歴史を見ると、“変わるときには大胆に変わる・変える”という特徴もある。
欧州の各都市では、クルマ依存主義という20世紀の古い考えを捨てて、電車や路面電車、レンタル自転車、カーシェアリングなど複合的な公共交通の大胆な利用促進で「21世紀の交通社会」を築きつつある。パリもその1つで、自転車のレンタル/シェアリング事業に続いて、「ヴェリプ」や「オキゴ」などカーシェアリング事業者も増え始めている。もし、日本で大胆に“クルマ依存の街作り”を捨てられるとしたら、それは京都かもしれない。
関連記事
- “クルマ離れ”の若者にアピールする自動車ビジネスとは?
「クルマ? 持ってないよ」という若者が増えている。高性能車や高級車があこがれの対象ではなくなった若い世代のクルマ利用を促進するには――自動車メーカーには新しいビジネスモデルが求められている。 - 利用者の中心は30代――日本でも広がるカーシェアリング
カーシェアリングとは、会員制でレンタカーよりも短時間の貸出を行う、新しいクルマの利用法だ。先行する欧州では公共交通の1つとみなされており、CO2削減に効果が出るなどの調査結果もある。カーシェアリングに注力するオリックス自動車に、日本における利用状況を聞いていく。 - レンタカーのFeliCa決済対応。その先にある可能性
決済だけでなく、ネットサービスと連携したサービスを構築できるのがおサイフケータイの良さ。レンタカーよりも手軽・短時間で車を借りられるカーシェアリングの世界であれば、そのメリットはさらに生かせる。 - トラムが走る街とトラムが創る街
地元商店街の「車がなければ商売は成り立たない」という固定概念を覆した、欧州の新世代トラム(路面電車)。路線バスや鉄道を合わせ、地方の公共交通網をどのように存続させるか。そこには、「交通弱者を切り捨てないために赤字を容認する」という思想がある。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.