イラストレーター・もんちほしの誕生(後編):郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)
情感あふれる美人画をベジェ曲線で描き出す、26歳の女性イラストレーター・もんちほし。彼女にしか描けないオリジナリティはどのように醸成されたのか? そして人はなぜ、彼女のイラストに“恋をする”のだろうか?
もんちほしの3つの武器
私はにわかファンだが、もんちほしコミュニティは増殖し爆発しつつある。個人のお客さまは男性6割、女性4割。30〜40代の男性がコアなファン。タペストリー(1万円以上)を20本以上購入する人もいる。絵の素晴らしさだけではない。彼女には“自分を客観視する3つの武器”がある。
まず“コミュニケーション”。ひとりひとりのファンを大切にする。10分も20分も話しこむこともまれではない。来場者が多過ぎて、人垣が渦を巻き、会話できないことを恨む。聴くことは多くのアーティストに欠けている資質だ。
2つ目は“着物”。「いつも着物を着ているのですか?」と訊くと「自分の作品の世界観に合わせて着物を着てみようと思いました」。着物は、アーティスト・もんちほしになるときの勝負服なのだ。
「着物を着る人=絵の女なのか?」と来訪者を惹き付け、洋服のときに比べて購入者は3倍以上に増えた。
3つ目は“もんちほし”という名前。IT社会での差別化とは検索エンジンの制覇である。ウェブ検索でオンリーワンの名前だ。その由来もうかがったが、ここでは明かさないでおこう。
もんちほしのこれから
イラストから制作した、ポスターやポストカード、鏡、しおりなどがオンライン販売されている他、カレンダーは東急ハンズでも販売されている。ひとつひとつ名前をあげるのは無粋なのでやめるが、東京・大阪を中心に企業との仕事の実績も増えている。企業とアートの仕事、どんな割合で仕事をやっているのだろうか?
私が取材ノートにペンで円を描くと、もんちほしさんは私の手からペンを取り、パイに割合を示す直線を引いた。
「かけている気持ちと時間、今はこうなんですけど、ほんとはこうかなぁ」
今は6割が企業の仕事、4割がアート。こうかなぁというのはその逆で、アート6、企業4だ。だが企業の仕事にも“もんちほしな要素”は望まれている。ある企業の社長からの依頼は「もんちほしさんの絵でウチの会社を変えてほしい」。“もんちほし世界の情念”がにじみでるパンフレットや会社案内が増えてきた。
人が商品に恋するのは、作り手の個性が刺さってくるからだ。一品モノでもマスプロダクトでもそれは同じ。いくらお客を精緻に分析するのがうまくても、機能や価格やチャネルにしか意思がない作り手の商品に恋はできない。パッションもなく、個性をフィルターにしないマーケティングでは、買い手は決して恋に落ちない。
恋のパッションの代償として、わたしの手元には(彼女が手にする)『白菊の鏡』がある(購入しました)。“素顔への恋”でなく“イラスト留まり”なので、もんちほしさんのマウスの上で踊っているだけかもしれないのだが。
→イラストレーター・もんちほしの誕生(後編・本記事)
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