疑問3 温暖化してる、それともしてない?――同じデータから2つの見解のなぜ:カーボンオフセットのカラクリ
カーボンオフセットは、温暖化を食い止めるため地球規模でCO2を相殺しようとする、新しい考え方だ。でもそもそも、本当に地球は温暖化してるのか、温暖化はそんなに悪いことなのか――。素朴な疑問を調べてみると、同じデータから2つの見解が生まれたことが分かった。
カーボンオフセットとは?
先進国の企業や国が、途上国などで削減したCO2量を権利として買い取り、買い取っただけCO2を減らせたとみなすことで、地球規模でCO2をオフセット(相殺)する国際ルール。疑問1参照。
2008年に入り、企業がにわかにカーボンオフセットに注目しはじめた。カーボンオフセットを行えば、地球温暖化の“主犯”と目されるCO2を減らせるからだ。
だがこのことは、地球が温暖化していることが大前提の話。そもそも地球は本当に温暖化しているのだろうか――。筆者の脳裏に、ふとそんな素朴な疑問がわき起こった。
温暖化は悪いことだらけ、人が地球に住みづらくなる
温暖化といえば、南極の氷が溶け、水害が増え、南の島が沈み……といった絶望的なイメージを抱く人も少なくないだろう。「人為起源のCO2で確実に温暖化している」とする東北大学の明日香壽川教授は、このイメージを正しいとする立場だ。
つまり温暖化が進むと、海面上昇や砂漠化が起こり、人が地球に住みづらくなる。また、急激な気候変動に、これまでの生活習慣や体質などが適応しきれなくなるというのだ。
明日香教授の主張は、気候変動研究の世界最高クラスの機関IPCC(INTERNATIONAL PANEL ON CLIMATE CHANGEの略で、「気候変動に関する政府間パネル」のこと)や、大学などの観測データなどに基づいている。
温暖化に恩恵あり、「寒さが死因」の人が減る
一方、中部大学の武田邦彦教授は、温暖化自体と、温暖化が悪影響を及ぼすという見解に懐疑的だ。温暖化を疑う裏づけには、やはりIPCCのデータを挙げている。
また仮に、温暖化して気温が高くなっているとしても、高緯度では寒さが緩和し、寒さにより死亡する人が減って過ごしやすくなる。地域にもよるが日本は作物が今より収穫でき、住みやすくなるメリットにも目を向けるべきだと主張する。
優勢な仮説は、温暖化肯定説
「人に悪影響を及ぼす温暖化が進行している」とする温暖化肯定説と、「温暖化は人に悪影響を与えず、温暖化自体が進行しているとは限らない」とする温暖化懐疑説。果たしてどちらが正しいのか。
調べると、ほかにも温暖化やその影響について肯定否定、さまざまな立場の仮説があることが分かってきた。出所はやはり、IPCCだ。IPCCが発表したデータによると、日本の平均気温は20世紀の100年間で1度上昇している。これは産業革命以前はあり得ないハイピッチで人為的なもの、とする見解が圧倒的に優勢のようだ。
数十億の地球の営みを知るには、20年間の研究では限界あり
環境省の安田將人氏は、「IPCCのデータが、人為的なCO2による地球温暖化をほぼ確実に検証している」と温暖化説を肯定しながらも、「世界中の研究者たちの科学的知見を集めても、やはり解明できないものもある」と、認識している。
さて、当記事内で頻出しているIPCC。この機関は現在、環境問題の専門家などが、気候変動に関する最も信用できるデータの出所として認識している。ただその設立は1988年。研究期間は20年間にすぎない。
数十億の地球の営みに比べると、一瞬である20年間の研究から分かる範囲には限界があるだろう。だからこそ、解釈や仮説などに食い違いが出てきてしまうのかもしれない。
有力説、温暖化を遅らせるためにCO2削減を
とはいえ、現時点では明日香教授らが唱える温暖化肯定説が優勢だ。地球や人に悪影響を及ぼす温暖化は「人為起源のCO2で確実に起こっている」のだから、悪影響を食い止めるには人為起源のCO2は当然削減する必要性がある――という。
また、リサイクルワンの興津世禄氏によれば、これ以上温暖化すると、環境破壊に歯止めがかからなくなるとされる、後戻りできない地点がいずれ訪れる。今人類にできることは、到達するまでの期間を「CO2削減によってなるべく遅らせる」ことだという。
以上から疑問3への答えはこうだ。
疑問3への回答
- 「人に悪影響を及ぼす温暖化が進行中」とする温暖化肯定説と、「温暖化は人に悪影響を与えず、温暖化自体が進行しているとは限らない」とする温暖化懐疑説など、温暖化への仮説は諸説あり。
- 諸説は、同じIPCCのデータから生まれた。
- 2008年7月現在、優勢なのは温暖化肯定説。
- 温暖化肯定説では、温暖化を遅らせるためにはCO2を削減すべき、としている。
いずれにしても、IPCCの研究データを元にした諸説のうち、人為的なCO2排出によって地球は温暖化している――という“常識”を前提に、CO2削減策のカーボンオフセットが生まれた。
名前(敬称略) | 所属等 | カーボンオフセットとのかかわり等 | 関連Webサイト |
---|---|---|---|
秋山大(あきやま・だい) | 凸版印刷 パッケージ事業本部 ITソリューション部 |
Web懸賞キャンペーンを展開 | カーボンオフセット・Web懸賞キャンペーンサービスのリリース |
明日香壽川(あすか・じゅせん) | 東北大学 環境科学研究所教授 |
環境問題等の研究ほか | 地球温暖化問題懐疑論へのコメント |
岡田俊二(おかだ・しゅんじ) | 近畿日本ツーリスト 団体旅行事業本部カンパニー 教育旅行課長 |
カーボンオフセット教育旅行の提案ほか | カーボンオフセット旅行のリリース |
興津世禄(おきつ・せいろく) | リサイクルワン 環境コンサルティング事業部 マネージャー |
カーボンオフセット事業のプロバイダー | リサイクルワン |
児玉千洋(こだま・ちひろ) | エコテスト 代表取締役 |
環境分析ほか | エコテスト |
武田邦彦(たけだ・くにひこ) | 中部大学 総合工学研究所副所長 工学博士 |
環境問題等の研究ほか | 武田邦彦(公式サイト) |
ビル・スネイド | カーボンニュートラル (イギリスの企業) 取締役 |
世界初のカーボンオフセット事業のプロバイダー | カーボンニュートラル |
安田將人(やすだ・まさと) | 環境省地球環境局 地球温暖化対策課 市場メカニズム室 排出量取引係長 |
CO2排出の整備ほか | 2006年度の温室効果ガス排出量について |
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