地球温暖化が問いかける“環境問題”の意味:環境ビジネス基礎講座
環境問題は、これまで主要なトピックが公害問題から廃棄物問題へと時代とともに移り変わってきた。そして今、最も注目のテーマとなっているのが地球温暖化問題。地球温暖化問題は、これまでの環境問題のように一部の企業だけの問題なのではなく、全ての企業に責任がある問題なのだ。
「環境ビジネス基礎講座」とは?
三菱総研・環境フロンティア事業推進グループ/環境・エネルギー研究本部の面々が、専門家ならではの知識・知見によってビジネスパーソンの環境リテラシー醸成をたすける連載講座。時事トピックを織り交ぜながら、環境問題がビジネスに与える影響を多面的に考察します。
※※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、連載「MRI環境講座」として2008年5月16日に掲載されたものです。「MRI環境講座」の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。
環境問題に対する関心・危機意識は今、かつてない高まりを見せている。地球温暖化問題を取り上げたドキュメンタリー映画『不都合な真実』のヒット。そして、この活動を牽引した、米国・元副大統領アル・ゴア氏らのノーベル平和賞受賞は記憶に新しいところだ。この問題は、企業活動に、ビジネスパーソンの生活に、いかなる影響を及ぼすのか。そして企業は、ビジネスパーソンは何をもって対峙すればいいのか。第1回は、今日における“環境問題”を定義するところから始めたい。
公害から廃棄物、そして地球温暖化
そもそも“環境問題”と一口に言っても実は多様な問題を包含している。例えばかつて“環境問題”と言えば即ち公害問題を指した。日本では1960年代に高度成長の結果として問題が顕在化した。この問題は直接的に人体に健康被害を及ぼすものであった。被害者を通じて、その深刻さが話題となり、原因を作った企業が糾弾された。これを受け、行政は様々な法を制定し、公害につながる企業活動を規制することで問題の是正を図った。結果として、企業はクリーンな技術を手に入れ、また公害問題自体も改善を見せた。
その後の代表的な“環境問題”の一つとして、廃棄物の問題が挙げられるであろう。資源の大量利用・大量消費を前提として発展を遂げてきた現代の経済社会、そしてそれに伴って行われてきた大量廃棄。その廃棄物の処分(特に最終処分)が追いつかなくなった。これが、廃棄物問題の原点の一つである。現在では、資源の枯渇に対しても大きな危機感がもたれている。様々なリサイクル関係の法制度――3R(Reduce・Reuse・Recycle)は、こうした流れの中で生まれた。先に述べた公害問題が人体への被害、直接影響であったことと比較すれば、廃棄物の問題は、現代社会が築いてきた“社会システム”の破綻が、その意味であると捉えられよう。
そして、ここ数年、最も話題となっている“環境問題”が、地球温暖化の問題である。地球の温暖化は既に現実である。人為的な活動に伴い排出される二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素などの温室効果ガスが主因となって、地球全体の平均的な気温の上昇、それに関連し、様々な局地的、突発的な影響、災害なども含む気候システムの変化、生態系などのシステムへ影響が顕在化しはじめている。これら“自然システム”は、地球において人類、社会が生存、維持していくための最も基礎となるシステムである。二酸化炭素排出の主要因は、20世紀の経済社会の発展を支えてきた石油など化石燃料の燃焼である。自身の発展と引き換えに、我々は“自然システム”に甚大な影響を及ぼし、自らの将来に対するリスクを背負ったことになる。
マイナス6%からマイナス50%へ――地球温暖化問題への「究極の目的」
実は地球温暖化については1970年代後半から、既に科学からのアラームが発せられてきたが、1992年のリオ・サミット(環境と開発に関する国際連合会議、“地球サミット”とも呼ばれる)、そして、これに続く「気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動枠組条約と略される)」の締結によって、世界の共通課題として認識、位置づけられたと言えるだろう。その後、1997年に京都で開催されたCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)で、先進国の温室効果ガス排出量削減目標を定める京都議定書(気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書)が議決され、注目を集めた。
今年(2008年)は、この排出量削減目標に対する第一約束期間の最初の年である。日本は基準年となる1990年(一部1995年)の排出量に対し、 2008年から2012年の平均でマイナス6%を達成することを目標として掲げており、その達成に向けて、国などにおいても様々な政策、制度が講じられている。当然、企業においても二酸化炭素などの削減は“待ったなし”の状況となっている。
2007年に入ってからは、マイナス6%とともに、マイナス50%という数値が、頻繁に聞かれるようになった。これは、2007年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が示した第4次評価報告書のインパクトが大きかったのではないかと思う。
IPCCとアル・ゴア氏は共にノーベル平和賞を受賞した。彼らの活動などを通じ、2050年までに地球全体として温室効果ガス排出量を半分程度にまで減らす必要があることが、広く世界に知らしめられたと言えよう。
では、マイナス50%によって何が実現されるのか? それは、先述の気候変動枠組条約に示された「究極の目的」の達成である。
条約では、「気候系に対する危険な人為的影響を防止する“水準”で大気中の温室効果ガス濃度を、安定化させること」との目標を掲げている。その“水準” は「生態系が気候変動に自然に適応し、食糧の生産が脅かされず、かつ、経済開発が持続可能な態様で進行することができる」こと、とされている。
つまり、「生態系の適応」「食料の生産」「経済開発の持続可能な進行」を確保、維持していくことが、地球温暖化問題への取組のゴールである。そのために必要な取組の水準は科学が示した。それが、世界全体での温室効果ガス排出量を対現状でマイナス50%にすること、である。
全ての企業が直面する環境問題
時をさかのぼり、かつて“環境問題”は、例えば公害の直接的な原因を生み出す一部企業に限定された問題だった。しかし、現代の“環境問題”は、現代の全ての産業・企業が原因をつくり、一方ではその影響を被ることとなる。環境問題は、より根源的に企業活動に影響を及ぼす存在となった。
特に、地球温暖化の問題は、世界が直面する様々なリスク――非常に重大なリスク――の1つとしても位置づけられている。最近では、「気候セキュリティ」といった言葉もよく耳にする。
誰かのために、という事ではなく、我々自身のために、今、ここにある“環境問題”に対峙してくことが求められている。現代の“環境問題”とは、そうしたものである。
では、企業は、ビジネスパーソンは、この問題にいかに対応すべきか。次回以降は、この問題が企業に直接・間接に与える影響について具体的に解説し、また取るべき施策の方向性についても検討していくこととする。
吉田直樹(Yoshida Naoki)
環境フロンティア事業推進グループリーダー(兼)環境・エネルギー研究本部主席研究員。
様々な企業における環境・CSR経営システム、事業戦略の構築、次世代“エコ”商品・サービス開発の支援などの業務を手がける一方、真に環境コンシャスな企業、環境問題を成長機会として捉え、活かしている企業の評価の手法、そしてこれらへのファイナンスの仕組みなどを開発中。
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