2〜3年後に必ず訪れる――クルマ社会の“未来予想図”とは?:神尾寿の時事日想
日本カー・オブ・ザ・イヤーの大賞に選ばれたトヨタ自動車の「iQ」。今年の選考では「低燃費」や「ダウンサイジング」が注目され、ベスト10に軽自動車が2台もランクインしたのは史上初。もはや自動車ビジネスでもエコロジーとエコノミーは、避けて通れないキーワードだ。
2008-2009 日本カー・オブ・ザ・イヤー最終選考会。その会場に漂っていたのは、時代の変革を促す「空気」だった。
日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考は、65人の選考員が持ち点25点を持ち、それを事前投票で選ばれた「10ベストカー」(今年は10位が同点で11台だった)の中から、5台に配点していくというもの。ただし、必ず1台には10点を入れなければならない。あとの4台への配点は選考員の自由だ。
その結果は既報のとおり。イヤー・カーの選考はトヨタの超小型車「iQ」が終始独走し、65人の選考員のうち実に39人が最高得点である10点を投じる圧勝となった。かくいう筆者も今年、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員を務めたが、最終選考ではiQに10点を投じた1人である。
着実に進むダウンサイジングの流れ
iQだけではない。今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーでは、最終選考に臨んだ「10ベストカー」選出の11台のうち、実に6台が「低燃費」や「ダウンサイジング」を訴求ポイントにしていた。例えば、軽自動車が2台も10ベストカーに残ったのも史上初であるし、特別賞「BEST VALUE」を獲得した本田技研工業の「フリード」は、7シーターカーながらパッケージ技術の向上でコンパクト化を実現したクルマだ。輸入車でも、フィアットグループオートモービルズジャパンの「フィアット500」がコンパクトカーとして選出されている。
また、アウディジャパンの「アウディA4/A4アバント」は、高級車カテゴリーながら低燃費がウリだ。特にベーシックグレードの「1.8T-FSI」は、フォルクスワーゲンのTSIエンジンと同じく、直噴化とターボ技術の組み合わせで“排気量を上げずに必要なパワーを得る”低燃費指向のクルマに仕上がっている。
むろん、iQなどダウンサイジング指向のクルマだけが評価されたわけではない。日産「GT-R」などハイパフォーマンスカーや、インポートカー・オブ・ザ・イヤーを獲得したシトロエンの「C5」も高い評価を受けている。クルマの価値はさまざまであり、それを評価する65人の選考員の価値観や個性もいろいろだ。しかし、そういった異なる評価軸の中から、ダウンサイジング指向のクルマが最終選考に多く残り、イヤーカーとしてiQが選出されたのは、クルマを取り巻く環境変化を象徴する1つの出来事と言えるだろう。
ふたつのエコが、クルマを変えていく
エコロジー(環境性)とエコノミー(経済性)。
この“ふたつのエコ”は、クルマというプロダクト、そして自動車ビジネスにとって、もはや避けて通れないキーワードになっている。消費者のクルマに対するマインドが大きく変わりつつあるだけでなく、大型車や燃費の悪いクルマは税制や法律によって規制される流れだ。好むと好まざるとに関わらず、クルマは低燃費で合理的、そして安全な乗り物に変わっていかなければならない。今後数年でクルマの世界にもパラダイムシフトが起こりそうだ。
筆者はそれを、かなりワクワクしながら見守っている。
来年を見据えれば、トヨタの「プリウス」とホンダの「インサイト」というハイブリッドカーのフルモデルチェンジ対決があるし、三菱自動車と日産自動車はいよいよEVの市場投入を行う予定だ。また、日欧のメーカーともにクリーンターボ技術やアイドリングストップ技術を用いて、既存のガソリンエンジン車の低燃費技術競争も激しくなる。欧州から始まったクリーンディーゼルの日本本格上陸も注目だろう。また、iQなどコンパクトカーのパッケージ技術や安全技術が、クルマのダウンサイジングも促しそうだ。
クリーンで安全な乗り物に、クルマが生まれ変わる。それは今までのクルマの価値観とは違う方向性として、けっこう楽しいことになるのではなかろうか。
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