ついに純増2位に浮上、イー・モバイルの実力とは?:神尾寿の時事日想・特別編(2/2 ページ)
毎月電気通信事業者協会(TCA)が発表する携帯電話契約数。10月の純増数で、1位のソフトバンクに迫ったのは新興キャリアのイー・モバイルだった。イー・モバイルはなぜ急成長しているのか? そのユニークな戦略を検証する。
トレンドにきっちり乗る、たくみなマーケティング
もう1つの「マーケティング」の部分では、データ通信分野の“トレンドにきっちり乗っている”のが、イー・モバイルの特徴になっている。
それが顕著に現れたのが、通称“100円PC”と呼ばれたNetbookとのセット販売だろう(参照記事)。これは低廉な超小型PCであるNetbookを(参照記事)、データ通信サービスでの2年間契約を条件に破格で売るというもの。これは携帯電話販売でかつて主流となり、総務省に問題視された挙げ句に廃された「販売奨励金モデル」をそのまま廉価版PCに用いたものだ。
形を変えた販売奨励金モデルの復活には、むろん是非があるだろう。特に大手キャリア幹部の中には、「今さら、アレ(販売奨励金による100円PC)が許されるのか」という非難の声もある。
だが筆者は、Netbookを“ゼロから立ち上がる新たな市場”と判断して、躊躇なく販売奨励金モデルを投入したイー・モバイルは、マーケティングのセンスがあると見ている。なぜなら、販売奨励金モデルはまったく新しい市場の創出に向けた端末普及の施策としては極めて有効であり、一概に“悪いこと”とは言えないからだ。販売奨励金モデルの弊害や矛盾が出るのは、普及拡大期が終了し、買い換えが中心で契約者数は増えない循環期に入ったときである。Netbookは普及拡大期の兆しが見えたばかりであり、そこにいち早く布石を打ったイー・モバイルのフットワークのよさは評価できる。
100円PCは顕著な例であるが、人気のスマートフォン「Touch Diamond」のいち早い投入や、積極的なデータ通信サービスの高速化、“通話ができる面白データ端末”「H11LC」のラインアップなど、イー・モバイルの取り組みは市場トレンドに無理なく“乗っている”。このあたりのマーケティングのたくみさも、同社の強さと言えるだろう。
かつて、データ通信市場やスマートフォン市場のキャスティングボートを握るのはウィルコムであった。しかし今では、躍進するイー・モバイルがその役割を奪い、成長の土台にしている。
来年以降、データ通信市場の“裾野の拡大”と、スマートフォン市場の“普及拡大期に向けた取り組み”は、新たな2台目市場の創出に向けて重要性を増してくる。その中で、イー・モバイルがどのような取り組みをしていくのか。それは同社の今後の成長のみならず、業界全体の動向を見ていく上でも、注目すべき要素の1つになりそうだ。
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