週刊誌ジャーナリズムの役割とは? 裁判員制度との関係(前編):“週刊誌サミット”番外編・元木昌彦氏に聞く(2/2 ページ)
苦境に立たされている出版業界だが、中でも週刊誌の部数の落ち込みが激しい。週刊誌ジャーナリズムを取り巻く環境について、元『週刊現代』編集長を務めた元木氏は、どのように見ているのか? 話を聞いた。
週刊誌ジャーナリズムの役割
――名誉棄損訴訟で出版社に高額な賠償を命じる判決が相次ぐなど、雑誌を取り巻く環境が厳しくなってきています。こうした流れについてはどのように感じていますか?
理不尽な金額だと受け止めている。特に『週刊現代』に対し、4290万円※を支払えという判決は“恫喝”だ(関連記事)。つまり司法は「週刊誌を潰してやるぞ!」と、脅かしているに過ぎない。司法と政治の権力が一緒になって、個人情報を通じ、雑誌規制という網を張りめぐらしてきた。そして、いよいよ“総仕上げ”にかかってきた感じだ。その背景には「裁判員制度」があるだろうと思う。
裁判員制度をスタートするにあたり、最高裁判所から「事件報道などを裁判員に予断を与えないような報道をしてくれ」と申し入れがあった。新聞やテレビは「はいはい」と飲んだわけだが、雑誌協会は「個別に対応」すると回答した。つまり雑誌は「今まで通り」ということになっている。雑誌協会の回答に対し、最高裁判所を含めた司法は「けしからん! 新聞やテレビは指示に従ったのに、なぜ雑誌は言うことを聞かないのか」と感じているのだろう。今年に入ってからは、(司法側が)雑誌のクビを絞めにかかってきている。
今は、なんでもかんでも訴えるという風潮がある。訴えられると、メディアはなかなか勝つのが難しい状況だ。こういった状況に対し、どうやって対抗手段をとっていくか。名誉棄損訴訟を高額にしていくのであれば、欧米型にするべきではないだろうか。つまり訴えた側が「メディアが誤った」ということを立証責任を持つべきだろう。
今のようにメディア側が不利な立場に立つのではなく、司法は裁判のスタイルを変えていかなければならない。メディア側には取材権の秘匿もあるし、匿名であってもその人が法廷に呼ばれるし、出版社側にとっては理不尽な要求ばかりされる。メディアは裁判に勝った、負けたということばかりではなく、ここは正念場と認識して、この問題を考えていかなければならないだろう。
――シンポジウムで印象に残った編集長の言葉はありましたか?
一番印象に残っているのは、『週刊文春』の木俣正剛元編集長だ(関連記事)。木俣さんは『週刊新潮』の朝日新聞・阪神支局襲撃事件※とよく似たケースを経験したことを披露してくれた。週刊誌の記者というのは、危ういところで取材をしている。
またメディアには捜査権がないので、どのように裏付けを取ればいいのか、どの段階で記事にできるか、といった問題がある。『週刊新潮』の場合は不幸な結果に終わったが、印刷されたものだけで判断するのはよくない。新潮の記者も裏付けをしたはずだし、メディアであればデマ情報をつかまされる可能性はある。繰り返しになるが、週刊誌の記者はギリギリのところで取材をしていることを分かってほしい。
朝日新聞襲撃事件というのは時効になったが、あの事件を解明しようという『週刊新潮』の姿勢は高く評価しなければならない。残念ながら不幸な結果になったが、真相を解明しようと試みるのが雑誌……特に週刊誌ジャーナリズムの役割だ。
元木昌彦氏のプロフィール
1945年11月24日生まれ、1966年早稲田大学商学部入学。1970年講談社に入社し、『FRIDAY』(1990年)と『週刊現代』(1992年)の編集長を務める。
2007年2月から2008年6月まで「オーマイニュース日本版」で編集長、代表取締役社長に就任。現在は上智大学や法政大学などで、「編集学」の講師を務める。
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