差別化のポイントは“人”、トレーダー・ジョーの販売戦略(2/2 ページ)
「より多くの選択肢」を「より安く」「より簡単に」探し出すことを求めて、Webへの顧客大移動が起こっている昨今。小売では「訪れる意義のある店舗作り」が問われてきている。その中でも米国店舗市場で独特のポジショニングを築いているトレーダー・ジョーの戦略を分析してみた。
「人」で差別化する
「人」で差別化するという考え方は、店舗、オンラインを問わず、また業界を問わず、至るところに現れはじめている。ネット企業としてこれを実践して、アメリカの流通に新風を吹き込んでいるのが、以前からお話ししている「Zappos.com(ザッポス)」という会社だ。「ザッポス」は、ザッポスの理念と文化を深く体得したコンタクトセンター社員たちに、個性を色濃く打ち出した接客をする自由を与え、顧客との間に「他社には真似できない」つながりを築きあげることに成功している。
顧客サービスの接点では、過去には「効率」の名のもとに、人ならではの力が押さえつけられる方針が採られてきた。レジでも、コンタクトセンターでも、顧客1人に費やす時間を測り、「パフォーマンス指標」として用いるという考え方がこれを物語っている。サービスは、モノと同様に、大量生産できるものとして、アッセンブリー・ラインにのせられてきた。レジのキーをいかに速く叩くことができるか、いかに正確にデータを入力できるか、などといったことだけが働く人に要求されてきたが、これからはそうではない。
感動、愛着、仲間意識など、人だけが創り出すことのできる価値が、何にも勝る差別化だと、多くの企業が気付きはじめている。小売り、電話通信、金融、PCサービスなど、米国のあらゆる業界でこれを実践に移す企業が頭角を現してきている。
ウォルマートが市場シェアの5分の1強を占める食品小売業界では、この傾向が特に顕著だ。トレーダー・ジョーに限らず、従来型のスーパーも接点の強化、いわば「人間化」をめざして動きはじめている。
ウォルマート、Amazon.comという二大巨獣を相手に、価格で競える時代でないことはもう目に見えている。とりたてて特殊な商品でない限り、「どこに行っても同じようなモノが買える」という市場における競争の本質を、我々は見直すべきだ。「人の力を、いかに引き出し、伸ばし、発揮させるのか」。経営者が最も頭を悩ませるべきは「人財戦略」という時代が到来しているのだと感じる。(石塚しのぶ)
関連記事
- Amazon.comが屈した史上最強の顧客主導型企業「Zappos.com」
米国時間7月22日にAmazon.com(アマゾン)が発表したZappos.com(ザッポス)の買収。ザッポスは米国で靴のネット通販という市場を切り開いたパイオニア的存在。アマゾンは何を目的に買収したのだろうか。 - ネット通販が変えた物流……アマゾンの破壊力と宅配業界の曲がり角
急成長を遂げてきた宅配便が“曲がり角”を迎えている。2008年度の宅配便の取り扱い個数は、32億1166万個(前年度比0.6%減)と1984年の統計開始以来、初のマイナス。このままでは宅配業界に、淘汰の波が押し寄せるかもしれない。 - 北米市場を制覇するKUMON――「一人勝ち」の仕組み
北米生徒数目下25万人。300万人への拡張も夢ではないといわれる教育系フランチャイズの雄、KUMON(公文)。競合他社の追随を許さないその強さの秘密に迫った。
関連リンク
Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.