小さな巨人を体現する、Pen D3の実力:-コデラ的-Slow-Life-
露出計も直って、フル機能を発揮できるようになったPen D3。実際に写真を撮ってみると、写りのすばらしさに驚いた。
露出計も直って、フル機能を発揮できるようになったPen D3。ファインダは小さな穴で多少暗いが、不便を感じることはない。だいたいのアングルを決めたら、後ろの露出計ボタンを押して数値を読み取り、レンズ部のダイヤルに移し替える。
距離は目測だが、ハーフは被写界深度が深いので、F5.6ぐらいまで絞ればカンでだいたい合う。最短距離は80センチで、近景を撮るときはちゃんと計る必要がある。
筆者の場合、腕を真っ直ぐ伸ばした指の先から目までの距離がぎりぎり80センチなので、そこから数センチ下がってカメラを構えると、最短距離での撮影ができる。距離計のないカメラを使う場合は、自分の体を使った距離の測り方をいくつか覚えておくといいだろう。
ただし画角は35ミリに直すと45ミリぐらいなので、何かのアップが撮れるというわけではない。やはり雑感や風景、人物を撮るというのにちょうどいい画角として設計されているのだろう。
シャッターのストロークはやや深めで、アングルを決めたら、ゆっくりと押し込んでいく必要がある。軽くスナップを撮るというより、じっくり構図を練りつつ、露出も案分しながら撮ると実力が発揮できるカメラのようだ。
ものすごいディテール
現像上がりを見て驚いた。Penは元々よく写るカメラなのだが、カラーでは若干古くさい写りをする。しかしPen 3Dは、さすがにフルサイズかと見まごうばかりの大口径レンズを載せた威力なのか、発色、描画力ともにすばらしい写りをする。ハーフながらディテール感の描写にも優れており、今だからこそISO 400ぐらいのカラーフィルムで撮りたいカメラだ。
背景のぼけ味もきれいだ。よく見ると、絞りはなんと5枚羽根である。コンパクトカメラではコストダウンのために2枚羽根で、しかもシャッター兼用のものが多いが、D3では別途レンズシャッターを採用、こちらも5枚羽根である。フルのカメラと遜色ない装備を、この小さな鏡筒部内に持たせたというのは驚異的だ。
修理したD3には、前玉に丸いふき傷があるのだが、実際の描画にはほとんど影響がないようだ。逆光に弱いのは、昔のカメラだからある程度は仕方がない。その昔、写真というのは、逆光で撮るものではなかったのである。レンズコーティングやフィルムのラティチュード、プログラムAEの開発など、数多くの試行錯誤が行なわれた結果、安心して逆光で撮影できるようになるまで、このカメラからさらに多くの年月を待つ必要があった。
余談ではあるが、筆者が生まれたばかりの頃に、我が家で使っていたカメラが最近判明した。Pen EESである。レンズの周りにセレンの露出計がはまっていたのは覚えていたので、PenEEかEESだろうとは思っていたのだが、先日中古カメラ店をのぞいていた時に、外装の模様のパターンが強烈によみがえってきたのである。PenEEの外装はランダムな革目なので、まったく違う。
筆者の子どもの時のアルバムには、Pen EESで撮影した写真がたくさん貼り付けてある。父は器用な人で、しかも凝り性だったので、現像から焼き付けまで道具を買い込み、全部自分でやっていたのを覚えている。この写真のページには「1歳」と書いてあるので、1964年ごろの写真である。
フィルムの粒子感はあるものの、描画力の高さはさすがに時代を席巻したカメラだけのことはある。ちなみに右肩の文字は母の筆跡で、「柿」と「姉」を書き間違えて訂正している。筆者には実姉がおり、このアルバムにもたくさんの2ショット写真があるので、つい勢いで姉と書いてしまったのだろう。
筆者の子どもが自分ぐらいの年になった時に、一体何を見ながら思い出を振り返るのだろうか。デジタル全盛の時代、ちょっと心配になってきた。
小寺 信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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