地方銀行と交通ICがコラボ――「ひろぎんPASPY」はなぜ生まれたか:神尾寿の時事日想(3/3 ページ)
カード発行数15万4000枚。広島のバスや路面電車で使える交通ICカード「PASPY」には、「銀行ATMからチャージできる」という特徴がある。地方銀行と公共交通はなぜコラボしたのか?「ひろぎんPASPY」の関係者に話を聞いた。
それでは、ひろぎんPASPYのサービスを見てみよう。
ひろぎんPASPYは、キャッシュカード・クレジットカード・ローンカードが一体になった「バリューワン」カードの子カード(別カード)と位置づけられている。子カード側には交通ICである「PASPY」のほかに、ポストペイ型電子マネーである「QUICPay」または「VISA Touch」、そして地元の中国新聞が展開する会員型割引サービス「ちゅーピーくらぶ」の会員証機能を内蔵している。さらにフェリカネットワークスの電子チケット・クーポン用CRMプラットフォームである「ピットモット」も搭載されている多機能カードだ。ちなみにピットモットは全国で採用が広がっているが、これまで利用媒体は「おサイフケータイ」のみだった。しかし、今回のひろぎんPASPYでは初のFeliCaカードへの実装になるという。
このようにバリューワンカードと子カードのひろぎんPASPYを合わせると、合計9つの機能を持つことになる。これほど多機能なカードサービスは、全国的にもめずらしいだろう。
「カードサービスで見ると、バリューワンカード側は(広島銀行の)主業務である金融サービスを一体化したものになります。そして、ひろぎんPASPYは交通ICと電子マネーを軸に、お客様の利便性を高めるものという位置づけです。お客様にとって便利なカードとなることで、広島銀行がメインバンク・メインカードになって地域のお客様の生活に近づいていきたいのです」(小川氏)
その一方で、ちゅーピーくらぶやピットモット機能については、ユーザーの利便性向上だけでなく、地域経済の活性化への効果を重視して導入した。
「中国新聞が展開している『ちゅーピーくらぶ』は、広島県内の加盟店が4000店舗。そして会員数が40万人います。地元紙が中心となって文化・スポーツ関連施設から飲食店までで割引・特典サービスを推進しており、ユーザーは『お得な情報』や『割引』が得られ、加盟店側は(ちゅーピーくらぶから)送客が受けられます。地域経済を活性化するスキームになっていますので、同じ目的(地域経済の活性化)を目指す立場として、中国新聞と提携してひろぎんPASPYに会員証機能を内蔵しました」(小川氏)
ピットモットもちゅーピーくらぶ同様に、新規顧客獲得効果だけでなく、地域経済活性化のツールになるのではないか、と期待しているという。小川氏は「(既存顧客を始めとする)地域で生活する人々の生活に貢献することと、地域経済を活性化すること。これが地方銀行の重要な役割」だと話す。
周知のとおり、FeliCaを用いたサービスやビジネスは急増しており、都市部から地方まで「カードやおサイフケータイをかざす」ことは日本の日常風景になっている。面の広がりという点では、FeliCaは全国に普及拡大したといってもいいだろう。一方で、今後を見据えると、重要なのは「カードやおサイフケータイ」をかざす頻度を増やし、より人々の生活に根ざしたサービスとして深みを増していくことにある。その点で、今回紹介した広島銀行のひろぎんPASPYなど、地方銀行が率先して交通ICや地元紙と連携していくという取り組みは、良いケーススタディになりそうだ。
地域の生活をより便利にし、地域経済を活性化するツールになれるか。FeliCaの地域ICカードとして取り組みは、今後さらに重要になっていくだろう。
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