「ふっかけた方が得」の“アンカリング効果”とは(2/2 ページ)
近年注目を集めている「行動経済学」では、「人間が必ずしも合理的に判断したり、行動したりできるわけではないこと」を実験などを通じて検証してきた。こうした効果の中で、最も商売に活用されてきたのが「アンカリング効果」だ。
突拍子もない数字でも影響を受ける
興味深いのは、最初の質問で示された数字が突拍子もないものであったとしても、影響力を発揮するという点です。例えば次のような質問。
1.サンフランシスコの平均気温は「摂氏292度」よりも高いか、それとも低いか。
2.サンフランシスコの平均気温は何度くらいか?
摂氏292度なんて、ありえない平均気温ですよね。もちろん、この質問を見せられた実験協力者も、サンフランシスコの平均気温を3ケタ(100度以上)とは予想せず、2ケタの数字を推測しました。それでもやはり、このありえない数字を示された人の方が、そうでない人よりも高い平均気温を回答したのだそうです。アンカリング効果は、これほどまでに人の判断を左右する力を持っているわけです。
「ふっかけた方が得」
商売人たちは、行動経済学で検証されるずっと以前から、アンカリング効果の存在を経験を通じて分かっており、プライシング(価格設定)や価格交渉において活用してきています。端的に言えば、アンカリング効果を考慮するなら、売り手側が価格交渉を有利に進めたければ、「ふっかけた方が得」ということなのです。
外国の個人商店では、しばしば値札がなく商店主との価格交渉で購入金額を決めますよね。この時、よほど善良な人でないかぎり、商店主が最初に提示する売値は、あきらかに「ふっかけ」の高過ぎる値段です。なぜなら、その数字が基準となって、利益幅の大きい高値で取引が決着する可能性が高くなるからです。ですから、買い手の立場からすると、よほど注意して商談しないとバカをみるかもしれないということでもあります。
今、個人商店を例に挙げましたが、国際間の企業対企業の大型の商談でも、同様のふっかけがしばしばみられます。日本人はある意味正直すぎるため、不利な価格で契約に至るケースが多いようですね。信頼関係が既にできている相手は別として、価格交渉では、最初に提示された数字は、相当疑ってかかるべきでしょう。(松尾順)
関連記事
- 「釣った魚にエサをやれ」――既存客へのマーケティング
見込み客が購入してくれるまでは熱心にアプローチするものの、顧客になった途端、見向きもしなくなり、新たな見込み客のハンティングに執心する……という営業活動はどこの企業でもあるもの。そんな中、資生堂やガリバーインターナショナルでは既存客を重視したマーケティングに取り組んでいるようです。 - アサヒビールの“目利き”調査
アサヒビールではビール系の新製品を出す際に、感度の高い消費者を対象とした調査を必ずやることになっているという。無作為抽出した消費者を対象とした調査との違いは何なのだろうか。 - 人が動かない4つの理由
品川女子学院校長の漆(うるし)紫穂子氏が手がけた学校改革。改革に際して、漆氏が気付いた「人が動かない4つの理由」とは何なのか。そして、動かすために漆氏はどうしたのかを紹介する。
関連リンク
Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.