スーツ売り場から見える社会:ちきりんの“社会派”で行こう!(2/2 ページ)
バリエーションが豊富な男性用スーツと違って、女性用スーツは選択肢が少ない、と嘆くちきりんさん。「スーツ売り場から社会が見える」とちきりんさんは説きます。
年配女性用スーツはもっと売られていない
男女比較ではなく女性服の中で比較すると、若い子向けのブランドではそこそこスーツ的な洋服も増えてきています。また最近は紳士服専門店も、リクルートスーツを中心に女性用スーツを売り始めています。リクルートスーツはそれなりにバリエーションが豊富です。この時期には男性と同数の女性がスーツを求めますから、市場として認識されているようです。
また、20代前半は“OL”の年齢なので、多くの女性が会社で働いています。最近は制服のない会社も多いので、若い女性向けのスーツも一定量出てきています。ただ、かなりローライズのパンツにピタピタのジャケットという、仕事のしやすさより見かけを優先したスーツがまだ多いようです。それ以外で売られている女性用スーツは、“子どものお受験の面接に行くためのママスーツ”です。これらはネイビーや真っ白の上品なスーツが多く、あまり仕事用には向いていません。
さて、40代以降の女性のためのビジネススーツは、品揃えも売っている場所も極端に少なくなります。これは、「女性が仕事でスーツを着るのは、リクルートスーツと結婚前のOL時代のみ」という概念から来ているのでしょう。
アパレル業界的には、「女性は30歳前後で結婚して家に入るもの。例え子育てが終わって再度働くとしても、スーパーのレジ打ちや飲食店などに職を求め、まさかフルタイムで働く企業に復帰して管理職になったりはしない」と考えているようです。
ちなみに女性閣僚をテレビで見ていると、50歳を超えている方でも、よくスーツを着ています。それらのスーツは、体のラインに合わせてものすごくきれいに作ってあり、“一目で分かる”オーダースーツが多いです。色も目立つものが多く、まさに選挙用の衣装です。
もちろん閣僚ともなれば、男性閣僚もオーダースーツを着ていると思うので、女性もオーダーすればいいと思います。でも一般企業の管理職女性の場合、「オーダーしか選択肢がない」のは値段的にもつらいです。
管理職の年齢になった女性会社員の中には、若い子用のスーツを無理矢理着ている人も多いようですが、年齢的に体型も変わってくるし、デザインもやっぱり「この年でこんなぴたぴたジャケット着られないでしょ」という場合も多いです。
ちなみに、女性用スーツが売られていないこととどちらが先かは分かりませんが、職場では女性のスーツは男性のスーツほどの画一性は求められません。平社員なら、エレガントスーツでもワンピースにカーディガンでも違和感はないでしょう。
しかし女性も管理職になって、それなりに責任が大きくなり、対外的な役目を負うようにもなると、“それなりのスーツ“が必要になります。
今はどこの大企業も「女性役員を輩出したい」と必死になっていますが、その「将来役員になる女性」、つまり「今は部長とか課長である女性」が着るべきビジネススーツがこんなに売られていないところを見ると、結局まだそんな人はほーんの一握りしか存在していないってことなのかな、と思えます。
いわゆる均等法第1世代 (1986年施行)の女性が今年47歳ですから、そろそろ管理職、上級管理職(役員を含む)に抜擢されようとしている時期です。女性の職場進出はその後、急速に進んでいるのでこれからますます“管理職として着るスーツが必要”という女性も増えるのだと思うのですけれどね。
スーツ売り場から見える社会
ところで、欧米ではそういう女性層のためのビジネス服はたくさん売られています。デパートでも女性用スーツを集めた売り場は結構大きいです。また移民が多く、体型の違う民族が混じっているので、サイズのバリエーションも豊富です。市場が大きくなればビジネスはついてくるということでしょう。
また、日本でもひところは「中高年男性向けのスーツ以外の衣服は、ゴルフウエアしか存在しない」と言われていました。それは彼らがどれほど人生を会社に捧げてきたかの証でもありました。
街の洋服売り場の変遷はその国の人たちがどんな生活をしているのか、その国がどんな社会なのか、を忠実に表すものなのだと思います。例えば、最近はユニクロがよく売れているようですが、これも「おしゃれをして繁華街にでかける」より「家の中で家族や友人とまったり過ごす」ことを好む“巣ごもりライフスタイル”の定着を反映しているのかもしれませんね。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
関西出身。バブル最盛期に金融機関で働く。その後、米国の大学院への留学を経て現在は外資系企業に勤務。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。
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