日本に貧困は存在するのか?――“貧困の定義”を考える:ちきりんの“社会派”で行こう!(4/4 ページ)
貧困問題を考える時の第一歩は“貧困の定義”だというちきりんさん。どのような視点から、貧困を定義付けるべきだとちきりんさんは考えているのだろうか。
目に見えない貧困状態
最後に、「お金がないから子どもが産めない」とか「経済的理由により、この仕事以外は無理」という状況もまさに貧困状態だと思います。
誤解のないように書いておくと、多くの人が子どもの数を制限する理由として経済的な理由を挙げますが、あれはここでいうところの「お金がないから子どもが産めない」とは違います。多くの人たちは、子どもに十分な教育を受けさせたいとか、個室の子ども部屋がもてる住居を用意したいが、それは無理だから産めない……という判断をしています。しかし、そういうケースではなく、もっと切実な意味で、お金がなくて子どもが産めない人がいるのです。
例えば、夫婦2人がめいっぱい働いてやっと、ぎりぎり食べていけるような家庭では、女性は出産のために仕事を一時的にでもやめることはできません。派遣で働いていて産休がとれず、子どもが生まれた後の職場復帰もできない場合も多々あります。そういう場合は、本当の意味で「お金がないから妊娠なんてできない」という状態になります。これはやっぱり貧困と言えるのではないでしょうか。
また、子どもが高校や大学への進学をあきらめて働かなくてはならない、という状態も貧困と思います。生活保護家庭で育つ子どもたちには、こういった判断を余儀なくされている例も多そうです。
というわけで、「食べるのに困らず、最低限の住環境を希望する場所に確保できており、家族形態や職業選択について経済的な理由で断念しなくてよい暮らし」が、すべての人に保障されるようになれば日本には貧困はないと言える……これがちきりんの考える貧困の定義です。
もちろん上記はちきりんの個人的な考えであって、それぞれの人が多様な意見をお持ちだと思います。貧困問題は最近よく議論されますが、「いったいどういう状態を貧困状態と呼ぶのか」「何が確保されていなければいけないのか」という点について、具体的に議論されることが少ないように感じました。“健康で文化的な最低限の生活”とはどんな生活だと私たちは思っているのか、みんながより具体的に議論してみるのもこの問題を考える一歩になるかもしれない、と思います。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
関西出身。バブル最盛期に金融機関で働く。その後、米国の大学院への留学を経て現在は外資系企業に勤務。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。
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