「10分1000円」をどう生かすか? 理美容業界の未来を考える:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
不況の波で価格競争が激しさを増す理容業界で、10分1000円カットのQBハウスの調子が良い。そのビジネスモデルの本質は、「価格が安い」ことではないのだ。
デフレを防ぐ小さなニーズを拾う努力
「前髪だけカットするために、美容院に行く?」(2010年4月13日 Excite Bit コネタ)
おでこむき出しのボブヘアであるというライターの田辺香氏が、わざわざ美容院まで前髪だけを切りにいくという知人の話を聞いて、「まさか!」と驚いたとある。
その知人の美容室は、前髪のみのカット料金は525円。通常のカットが約4000円なので、「妥当な価格かも」としている。1分100円なら、前髪カットは5分。フルサービスは40分で4000円なのだろう。筆者の行きつけのサロンは前髪カットは1050円らしい。フルサービスのカット料金は7350円。10分と70分。まぁ、そんな感じだ。だとすれば、「法則」は正しいことになる。
しかし、上記の記事では田辺氏行きつけの美容室の談では「前髪だけを切りにくる人は、確かに定期的にいますね」という。ただし、10年前くらいから、その割合は減ってきているそうで、近年では「月に1人いるか、いないか」という状況らしい。
それって、恐ろしくもったいないことに感じてしまう。
なぜなら、昨今人気の「森ガール」の髪型は「前髪パッツン」なのだ。しかも、ただのパッツンではダメなのだ。カット名人である筆者の担当美容師に聞くと、パッツンしながらも微妙にすいて、さらに両端は徐々に長く調節するそうだ。
表現が至らないので別の美容室の作品だがサンプルをリンクする。こんな感じだ。はっきり言って素人の手に負えるものではない。
しかし、無謀にもみんな自分で何とかしようとするのだ。「前髪カット」でインターネットを検索すると、その方法を示すページや体験談が多数ヒットする。そして、失敗談も……。
売り上げ=客数×客単価である。そして、客数増には来店頻度増も欠かせない。美容業界では、やはり不景気の影響で顧客の来店頻度が低下しているという。恐らく、理容業界もそうだろう。
自分でパッツンして失敗して泣く。そんな顧客の不幸と、店を開けても美容師の手が空いている時間が長いというような店の不幸。それを解消するために、 10分間1000円の前髪やちょっとしたメンテナンスをもっと提供すべきではないだろうか。顧客との接触頻度が上がればそれだけビジネスチャンスも多くなる。シャンプー、トリートメントなどの商品のオススメをするもよし、ネイルやメイクなどのサービスを提供するもよし。顧客のその時々の状況や要望に応えるのだ。
理容業界もそうだ。既存業界も10分1000円で、メニューを細かく選べるようにして、顧客の要望に応えればいい。また、「今日はこれからデートなので、ひげ剃りを」とか、「汗をたくさんかいたからシャンプーして」などの要望にも応えられよう。
ともすると原理原則を忘れて無謀な展開をしたり、もうけのチャンスを見失ったりしてしまう。10分1000円や1分100円をもっと活用すればいい。
しかし、理美容業界だけでなく、ほかの業界も「原理原則」を忘れたデフレ競争に走っているかもしれないのだ。他山の石としたいところである。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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