iPad販売に見る、新世代の予約行列マーケティング:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
iPadの米国での発売から1カ月。日本での発売日が5月28日と決まり、予約を5月10日から受け付けたが、注文が殺到したためにわずか3日で終了した。iPadが消費者の購買気分を盛り上げた背景には何があるのだろうか。
成り行き消費者から予定調和消費者へ
ネットが普及した今、行列したい人よりも、並びたくないという人が増えた。行列から予約への背景には、“成り行き消費行動”を避けたい“予定調和消費者”の増加がある。
どこかへ行く時、地図や乗り換え情報、渋滞情報などを駆使して合理的に到達しようとする。本を買う前にカスタマーレビューを読む。オークションで入札する前に値ごろ感を調べる。在庫を尋ね、席を予約する。たいやき屋の行列さえTwitterを使って回避しようとする。
成り行きで動いての空振りやザンネンを避け、行動や結果に予定調和を重視する。そんなネット民族心理が世界的に広がる。だから、行列よりも予約へ転換する企業・店舗が増えている。
だが、私も行列は好きではないが、あまりに整然とした予約受付で終わってしまっては、実は深層にある「行列したい」という心理は満たされない。「わざわざ身を削って手に入れる」という感覚がないと、ありがたみが薄れないだろうか?
予約と行列をヒトでさばく
慢性鼻炎持ちの私にはかかりつけ医がいる。名医なので何しろ混雑している。ネット上の予約システムを見ると、いつも数週間先まで「×印」のオンパレード。だが発作なので、突然症状が発生する。薬はない、鼻水は止まらん、くしゃみも止まらん。私はどうするか? もちろん電話する。
「ハイ、●●耳鼻咽喉科です」
「あのー、ネット上では予約一杯ですよね。ぐすん、何とかなりませんか?」
ポイントは鼻声(笑)。すると、やさしい受付スタッフが、スキマの時間帯を医師とネゴってくれる。
「では、明日の15時15分からではいかがですか?」
一も二もなく感謝してうかがう。ネット上の予約システムに加えて、わざわざ電話でお願いしてきた急病患者も受け入れるヒューマンタッチ。これも人気の秘密、新世代の予約行列マーケティングと言えるのかもしれない。
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