アサヒビールの挑戦――若者は“氷点下”のビールに振り向くのか?:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
凍る寸前のビール……聞いただけでノドが鳴る。若年層の「ビール離れ」を食い止めようとするアサヒビールの「新しい飲み方の提案」は成功するのか。
「モノ」ではなく「コト」としてのビール
かように、いっぱしのビール飲みになるには「修行」がいる。
しかし、昨今、ムリに勧めれば「アルハラ(アルコールハラスメント)」と指弾される(確かにムリは良くない!)。かつて自分が受けたような「指導」などはできない。また、めっきり世代を超えた飲みの機会も減少している。
指導や修行だけではない。ある種の「憧れ」に背中を押されて、自主的に手を伸ばす(自習? 自主練習?)ことも減ったのではないか。
「苦い」と思っても、「これがオトナの味なんだ」と「修行」する動機が起きないのではないだろうか。ムリに苦さを我慢して「オトナ」になろうと思うほど、昨今の若者には「オトナ」の姿は憧れるほど魅力的に映っていないだろう。「ビール修行」の伝統文化は崩壊しているのだ。
2008年10月にネットエイジアが発表した調査「ビールに関する調査〜まずはビール、20代女性では27.1%〜」によると、ビールが「好き」と答える30代、40代はそれぞれ41%、43.1%なのに対し、20代ではたったの23.6%しかいない。
0度のスーパードライは、味よりものどごしが強調される温度。その「味わい」にフォーカスしてみれば、そのスッキリ加減は「新ジャンル」を想起させないだろうか。
長引くデフレ不況は、居酒屋の景色をすっかり一変してしまった。280円や380円の低価格均一価格居酒屋の隆盛である。それらの店で出されるのは、仕入れ値の安い「第3のビール」などの「新ジャンル」が多い。
アサヒビールは、新ジャンルが主力のスーパードライを侵食しないように、長く飲食店向けの「樽生」はスーパードライだけに特化し、新ジャンルを封印していた。しかし、大勢には逆らえず、新ジャンルの「クリアアサヒ」を苦渋の果てに解禁している。
今回は、飲食店向けには特殊サーバーまで開発し、家庭用にも専用の冷却キットを景品で提供するなど、例年にない力の入れよう(2010年3月13日付ダイヤモンド)というから、本腰を入れているようだが、0度のスーパードライを体験した若者やオジサンが、のどごしを楽しんだ後に、「やっぱり、安い第3のビールで十分じゃないか」となりそうな気がする。
では、今回の試みはまったく成果を期待できないのか。筆者は別の観点から、有意義だと思う。
ビールを飲むということは、単に「アルコールを摂取する」「酔っ払う」ためではない。まして、外食で飲用するということは、単に「モノ」としてビールを求めるのではなく、楽しい「コト」として対価を払っているのだ。
ビールは単に「のどの渇きを癒やす」ための「モノ」ではない。「楽しいコト」の「触媒」である場合が多い。0度のスーパードライにびっくりすることは、楽しいコトにほかならない。
ビールの飲用は「文化」である。若者に「文化」を伝え、さらにはオジサンにも、価格に変えがたい「楽しいコト」を思い出させるために、「アサヒスーパードライ エクストラコールドBAR」には大いに期待したい。そして、「●●離れ」という言葉を徹底して払拭するため、若者のニーズを真にとらえようとするアサヒビールの心意気は、見習うべきところだろう。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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