宅配便との不毛な戦い、なぜ宅配BOXは使われないのか?(3/3 ページ)
宅配会社各社と、不在伝票をめぐるやり取りで、いつも不毛な戦いを繰り広げているという筆者。しかしそこには、ささいなやり取りではあるが、環境経営が抱える根本的な課題が隠されていると主張する。
各プレイヤーのニーズを把握する
全体最適を図る上でもう1つ重要な視点は、押し付けではなく、おもてなしの心で、個々のお客さま、サプライチェーン上の各プレイヤーの細かいニーズを配慮するということです。全体最適というと、ともすれば、一律のサービスを考えがちですが、これこそまさに宅配会社が、お客さまとのトラブルを恐れ、一律に対面での配達を原則とすることによって、お客さまの不満足を生んでしまっているのと同じ考え方です。
それぞれのプレイヤーがある行動を取っているのには、何らかの理由があります。その行動を全体最適に向かって変えていくには、その行動の理由を把握し、それを上回るメリットを全体最適を実現することによって、提供していかなければなりません。
そのためには、色々と特典を無償で提供するのがサービスであるという考え方を捨て、「相手の望むものを提供する」というおもてなしの心が必要です。対面のわずらわしさを嫌うお客さまに対して、接触機会を少なくするなど、余計なものを提供するのをやめるというのも立派なサービスです。
1人1人のニーズに細かく応えていては、コストばかりかかって割高になってしまうというのは、思い込みにすぎません。1人1人のニーズに応えつつ、大量生産のスケールメリットを得る方法はあります。マス・カスタマイゼーションという考え方になりますが、部品レベルでは標準化・共通化し、それらの組み合わせで、製品レベルではお客さまの細かいニーズに対応するというビジネスモデルです。
マス・カスタマイゼーションは、コンセプトレベルの絵空事ではなく、パソコンのデル、家具のイケアなどが有名ですが、商品やサービス、サプライチェーンの設計とITの組み合わせにより、すでに現実のものとなっているものです。
宅配便でも、例えばゆうパックでは、届け出をすれば宅配BOXの利用についての希望を受け付けており、技術的には現実なものとなっているので、後は各社のサービスについての考え方次第です。
受取人の要望をきめ細かく管理できるというのは、宅配サービスの差別化のポイントになります。宅配会社からしてみれば、受取人はお客さまではないと考えるかもしれませんが、受取人はお客さまの荷主のお客さまで、荷主企業が提携宅配会社を選ぶ時に、受取人への対応のきめ細かさというのは非常に重要な選定のポイントになります。
日本の売り手、サービスの提供者は非常にリスクを取ることを嫌い、サービスを改善したり、ムダをなくすことよりも、サービスを変えないこと、1件でもクレームがあれば、それに対応しようとするあまり、押し付けのサービス、過度な品質保証がどんどん積み上げられていき、社会的に非常に大きなムダを生んでいます。
このような社会では、我々サービスの買い手、受け手が無料だからとお仕着せのサービスを黙って受け取っていると、社会のムダがなかなかなくなりません。そうした提供者の考え方をおもんばかって、宅配の対面での再配達にしても、レジ袋の削減にしても、商品の過剰包装にしても、不要なものは不要と売り手にはっきりと伝えていくことが、社会のムダの削減、環境負荷の低減につながります。
やがては、それが商品・サービスの価格低減という自身のメリットにつながるかもしれません。それがなくとも、いらないモノをいらないと言うのにコストはかかりませんし、それで社会のムダが減り、地球環境の負荷低減にも貢献できるとなると、それだけでも気持ちが良いものではないでしょうか? (中ノ森清訓)
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