Fマウントの奇跡、素晴らしきガチャガチャシステム:-コデラ的-Slow-Life-
NikonのFマウント用のレンズには、カニの爪が付いているものがある。「ガチャガチャシステム」のボディであれば、マウントアダプター不要で使えるのだ。
一眼レフカメラのレンズというのは、メーカーさえ同じなら何でも付けられるというわけではない。世代によって、はめ込み方が違ったり、ときにはマウント部分の直径が違ったりするわけである。
「同じメーカーなら何でも付けられるようにすればいいのに」と思われるかもしれないが、レンズ本来の性能が出せないボディにも付いてしまったら、ユーザーが余計に混乱してしまう。だからカメラメーカーは、規格が変わったら絶対に付けられないよう、マウント部分に工夫を凝らしている。
それでも、あるマウント規格からの派生規格というものがあり、かつてはレンズのマウント部の一部を削ったら付くというようなものも存在した。また、古いスクリューマウントも所詮はネジなので、直径さえ合えば付いてしまうものもある。ただ、フランジバック(マウント面からフィルムまでの距離)が違うなどの原因から、フォーカスが合わないといった不具合が発生する。
そんな中、過去から現在に至るまで、基本的なマウント形状が変わらないものが、NikonのFマウントである。従って、いま売られている最新のデジタル一眼レフボディにも、50年前のレンズが付くという、ものすごいことになっている。
当然、いまのような電子接点は存在しないので、フルマニュアルでしか動かないが、それでもちゃんとフォーカスが合い、撮影できるというのは驚異的である。一部には出っ張りが邪魔で付かないレンズ群もあるが、改造によって付くようになる。筆者が知る限り、これだけの年数を隔てたレンズが、マウントアダプターなしに直接付けられるというのは、NikonのFマウントだけである。
優れた機械的工夫
前置きが長くなったが、ガチャガチャシステムである。露出計連動が主流になってくると、どうしてもレンズの情報、特に開放F値と絞りをいくつに設定したのかを、ボディ内蔵の露出計に知らせる必要が出てきた。
そこでNikonが開発したのが、ボディに角度を検出するためのレバーを付け、レンズには絞りリングにそのレバーを挟むためのカニの爪のようなものを付けることで、角度によって絞り値を伝達するという方法であった。これが俗にいう「ガチャガチャシステム」である。
レンズを装着する際には、まずボディのレバーを向かって右側にいっぱい回しておく。レンズの絞りはF5.6に設定し、その状態でマウントに付ける。するとうまいこと、ボディのレバーが爪に挟まる角度ではまる。
あとはレンズをそのまま左にひねり、レンズをしっかりはめ込む。その後、絞りリングを最も絞った方向に回し、次に開放になるように回す。このとき、「ガチャ、ガチャ」と音がして、あら不思議、レンズのF値がボディに伝達されるのである。
実はメカ的な構造としては結構複雑で、要するに絞りリングが回る角度の限界を測定しているのである。ボディのマウントの根元には、F値を示す溝があり、レンズの開放F値が測定できると、判定したF値が赤いポッチで示させる。
レンズを外すときは、またレンズの絞りをF5.6に合わせ、アンロックボタンを押しながらひねる。絞りをF5.6以外に合わせていると、絶対に外れないので、注意が必要である。
このカニの爪も年代によって形が変わっている。スリットが付けられたものは、ガチャガチャ方式の次に開発されたAi(Automatic Maximum Aperture Indexing)システム用のレンズだが、爪があることでガチャガチャ方式でも使えるという、後方互換性も備えた。
要するにNikomatは、カニの爪が付いているレンズならば大抵は使えるという、実にお得なカメラなのである。
小寺 信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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