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コラム

日立の納期遅れで日産がライン停止――日本企業が調達で失敗する理由(2/2 ページ)

日産自動車は、日立製作所から調達しているエンジン制御部品の入荷遅れのため、国内4つの完成車工場で3日間の操業停止を決めた。これは単なる景気回復時の需給バランスの調整、日立の納期管理、サプライヤ管理の問題ではないと筆者は主張する。

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大企業でも単なる“お客さま”

 もう1つ見落としてならないのは、日本企業はたとえ大企業であっても、海外メーカにとって見れば、もう神様ではなく、単なるお客さまの1社に過ぎなくなってきている点です。

 今回のケースで言えば、STマイクロが昨年公表した主要顧客リストには、独ボッシュ、米デルファイ、デンソーなどの自動車部品大手の名前ばかりで日立の名前は見当たりません(出所:日本経済新聞 2010年7月14日 11面)。

 確かに1960〜80年代の日本の高度成長期には、日本企業に付いていけば取引も伸びたので、サプライヤから見れば、日本企業は神様だったかもしれません。しかし、1990年以降、日本企業は日本で大企業であってもメジャー化が進んでおらず、現在のグローバル市場で見れば中小企業に過ぎなくなっています。また、事業、品種が多岐にわたっており、企業規模が大きくても、事業や取引単位で見れば、1つ1つの取引はさらに小さく見えます。加えて、品質や短納期の要求はきつい。グローバル市場のサプライヤから見れば、日本企業は神様どころかお客さま、ひどい時には単なるクレーマーとしか見られていません。

 もともと、海外企業は個々の取引での採算管理が徹底しているケースが多く、こちらが長期的取引を約束したり、将来的利益を訴えても、話半分にしか聞いていません。商品・サービスの価格競争力の維持を考えると、こうした海外企業とより上手くより多く付き合っていかざるをえません。

 例えば、今回のケースではSTマイクロは10日ほど前に、「日産向けのICについて、契約数量の8割強しか供給できない」と一方的に通告してきたとのことです。日立はただちに自動車部品子会社、日立オートモティブシステムズの専務らを欧州に派遣、STマイクロに釈明を求めましたが、詳しい釈明は一切なかったとのことです(出所:同上)。

 このような環境の中で、今回の件を単なる需給バランスの調整、他社(日立)の納期管理、サプライヤ管理の失敗ととらえ、いつまでも「お客さまは神様」という立場にあぐらをかいてしまう企業では、自身の工場のラインもすぐに停止することになりかねないでしょう。

 マスコミの論調では日立の責任を追求する声もありますが、分かる人から見れば、今回の生産停止の原因は最終的には日産にあります。日立からの1社購買、STマイクロのカスタムICの採用を日産が選んだ時点で、こうした事態は避けられないことは明白です。

 「モノが届かないなんて日本企業の常識では考えられない!」ではなくて、「モノが届かないこともある」という前提で、そうした事態にどう対処するか、どれだけそのリスクをサプライヤに転嫁し、どれだけ自社で引き受けるのかを考える必要があります。海外サプライヤの場合は、自然災害や工場事故に加えて、工場ストや港湾スト、政情不安定など、日本では考えられない要因で供給が止まることも少なくありません。

 加えて、海外のサプライヤと付き合っていく上では、こうしたリスク配分までもが、取引価格や信頼関係の構築に大きく影響します。長期的な信頼関係は同一民族でなければ築けないというものではありません。相手の価値観や価値判断の基準を理解し、それを尊重していけば、信頼を勝ち取ることはできます。

成功体験が足かせに

 今の企業、マスコミや大学、政治のトップは、日本が“Japan as No.1”と呼ばれている時代に活躍した方々が中心となっています。どうも、その成功が大きすぎたゆえに、その成功体験がノウハウではなく、強いノスタルジーとなって現実を直視できなくなっており、それが現在の日本の課題克服における足かせになっている気がします。

 そろそろ「お客さまは神様」という買い手の自分にとって甘い言葉にすがるのは止めて、「お客さまは単なるお客さま」と見られているという冷徹な現実を受け止めた上で、商品ラインアップ、開発・設計、調達戦略、購買戦略、サプライマネジメント、サプライヤとの関係のあり方などモノづくり、事業そのもののあらゆる側面を見直す時期に、われわれ日本企業は来ています。(中ノ森清訓)

 →中ノ森清訓氏のバックナンバー

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