JALが教えてくれる「業績低迷後のコスト削減は焼け石に水」(2/2 ページ)
リーマンショック以降の不況に対して、各社はコスト削減で生き残りを図ってきた。最近になり、景気底打ちの声も聞かれ、「よしコスト削減は終わった。これからは攻めだ」と考える経営者も多いかもしれない。しかし実はそうした考えは誤りで、「攻めの時こそコスト低減の時である」ということを、会社更生手続き中の日本航空をケースに学ぶ。
小手先のコスト削減ではダメ
JALが今後、さらに収益構造、コスト構造の転換を進めようとすれば、ますます債務超過額が増え、支援している金融機関の債権カットなどの支援や債務がさらにふくらむという悪循環に陥ってしまう状況にまで追い込まれています。
本来であれば、JALは現在、小手先のコスト削減ではなく、全社員一丸となって商品・サービスに対する信頼回復、魅力ある商品やサービスの開発、抜本的な収益構造やコスト構造の転換に努めなければならない時期です。
それが、両面コピーを取る、休み時間に電気を消す、通勤にタクシーを使わないといった議論に終始せざるを得ないのは、反対にそこまで追い込まれてしまったことの表れです。これらの取り組みはやらないより、本来やるべきことの支障にならない限り、できることはやった方がよいのですが、正直、焼け石に水の感があります。ひどい時には、こうした細かい努力は、経営者や従業員に、とりあえず「自分たちはこんなに頑張っている」との達成感が得られるために好んで使われますが、単なる自己満足に終わってしまい、目の前の大変だが本当にやるべきことから目をそらさせてしまいます。
整備工具や資材を長く使用するのに、本当に資材を新品と中古とに分けて保管する必要があるのでしょうか? 購入や廃棄の基準を厳しくして、そもそも新品を買うのを減らした方が、本当は良いのではないでしょうか。新品と中古とを分けて保管するという仕事をわざわざ作っていることはないでしょうか? パイロットが空港まで自家用車で通勤するのは、パイロットの運転するクルマが交通事故に巻き込まれることなどによる運行スケジュールへの影響など、別の問題をもたらすかもしれません。
このように追い込まれてからのコスト削減は、手遅れだけでなく、ゆがんだ行動、意思決定をもたらすことになりかねません。景気底打ちも迎え、攻めの姿勢に転じている企業も多くなってきているとは思いますが、攻めの姿勢が取れるこれからこそ、真のコスト低減に着手できる時期です。
これからが、小手先のコスト削減ではなく、攻めの過程の投資、活動を通じて、競合他社が追従できないような収益構造やコスト構造の転換を常に追求していく真のコスト低減の始まりの時です。(中ノ森清訓)
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