縮む未来を映す「松坂屋上野店のデパ地下」:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
日経MJ8月4日版総合小売り面に、松坂屋上野店の生き残り戦略が紹介されていた。その記事から、これからの日本における商売の姿を少し拡大して考えてみよう。
縮小する市場での戦い方
日本の総人口は2004年12月の1億2783万8000人をピークに、今後加速度的に減少していく。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計では、2050年には1億人を切って9515万人になるとしている。実に50年間で4分の1減少してしまう。筆者もうっかりするとあと50年くらい生きてしまうかもしれない。その時、人口が9500万人に減少した日本に住んでいるのだ。
縮小する市場で「市場シェア」を占有する意義は低下する。一定シェアを維持できたとしても、パイ自体が縮小していくからだ。
「目指すべくは、市場シェアよりも顧客シェア」と言われたのがCRM(Customer Relationship Management=顧客関係性管理)が注目された2000年ころであった。1人1人の顧客を囲い込んで、その顧客のLTV(Life Time Value=生涯価値)を最大化する。反復利用を長期にわたってうながし、自社に落としてもらう金額をできるだけ多くすることが目標だ。10年が経過して市場縮小が明確になった今、改めてその概念の重要性を高まっているのである。
顧客シェアを高めるためには、囲い込むべき顧客が「自分にピッタリ」と思ってロイヤルティーを高めてくれることが欠かせない。それがデパ地下であれば、自分にピッタリな分量の販売であり、日々の食事にピッタリな品揃えであり、そして、自分に対するアドバイスや提案なのだ。それを、松坂屋上野店のデパ地下は愚直に実行し始めたのだと言える。
景気が回復しつつあるとはいえ、昨今の環境は「ハレの日」を謳歌するゆとりはなく、必死に日々「ケの日」を生きる暮らしである。その中でもゆとりがある層はといえば、今のところ年金がしっかり出ている現在の高齢者と、世代間格差の勝ち組年代ともいわれる中高年だ。記事では売り場責任者が「安さを求めるなら、近隣に別のスーパーがある。うちの顧客は求めているものが違う」と言い切っている。ターゲットを絞り込んで、そのターゲット顧客にピッタリな提供価値とポジショニングを明確化しているのである。
百貨店は「ハレの日」の象徴であった。特に高度成長期以来、「小売りの王様」の座に君臨し続けてきた。しかし、百貨店売上高は9兆7131億円を記録した1991年をピークに減少に転じた。
もはや「小売りの王様」が君臨する市場という領土は縮小の一途を辿る運命だ。広大な領土を維持する意味はない。必要なのは、小さくとも自らが生きていける、守るべき領土を明確にしてそこでの最適な商売を再構築することが欠かせない。それが、松坂屋上野店のデパ地下の姿なのである。
もちろん、現在の中高年はしばらくするといなくなる。人の世の定めだ。その前に、次の「小さな領土」とそこでの「最適な商売のしかた」に柔軟に組み替えていくことも欠かせないのである。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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