ペプシモンブランはまずくなくてはならない:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
猛暑がようやく落ち着く気配を見せ、秋の味の話題もちらほら聞こえてきた。そして、季節の味覚のごとく恒例ともなっている、毎年1〜2回発売される変わり種ペプシ。この秋の新作は「栗」がテーマだ。
ペプシモンブランがまずいと予想するワケ
ちょっと昔の記事になるが、変わり種ペプシの戦略的目標が、2009年10月7日付日経産業新聞で紹介されていた。記事タイトルは、「サントリー、ペプシPRへ話題作り シソ・アズキ…相次ぎ『奇策』」。
記事中でペプシブランドを運営するサントリー食品・食品事業部の石原圭子課長(当時)がインタビューに答え、「2本目を買ってもらうことは期待していない」「限定品は味わいの驚きでブランドの新しさや楽しさを発信する手段。商品自体がペプシのPRになっている」と言い切っている。
ペプシの最大のライバルといえば、コカ・コーラだ。会社規模で考えれば、総合食品企業のペプシコは、コカ・コーラよりはるかに規模が大きい。また、世界各地の飲料市場でも、地域によってはペプシがコカ・コーラを上回るシェアを確保している例もある。しかし、日本市場では、ペプシを擁するサントリーは飲料業界第2位。第1位は日本コカ・コーラだ。
両社の飲料全体でのシェアはサントリーが20%なのに対し、日本コカ・コーラが30%以上と、サントリーは大きな差を開けられている。両者の戦力の違いで大きいのは、自販機の保有台数である。日本コカ・コーラが、全国にある清涼飲料用自販機約250万台の自動販売機のうち、約100万台保有するのに対し、サントリーは約45万台と劣勢なのだ。
自販機での販売に劣るサントリーが注力するのは、昨今、自販機以上に重要な販売チャネルであるコンビニだ。自販機の飲料販売シェアはかつての50%から現在は35%まで低下している。それを奪っているのがコンビニなのだ。自販機は自社の都合で商品をラインアップできるのに対し、コンビニの棚を確保するには、チェーンの本部・マーチャンダイザー(MD)とフランチャイズオーナーが、「扱おう」という気にならなければならない。そして、その意志決定を大きく左右するのが商品の「話題性」なのである。
変わり種ペプシの狙いは、その話題性喚起を、マス広告などを全く用いずに口コミで伝播させることにある。発表された「ペプシモンブラン」の話題は、すでにブログやSNS、Twitterに記載されている。この記事もその1つになる。話題性を喚起して、変わり種ペプシをコンビニの棚に並ばせる。多くの店は、その限定期間中、ペプシのNEXなどのレギュラー商品も棚のフェイス数を増やす。それこそが、狙いなのである。
コカ・コーラに対するペプシ。日本コカ・コーラに対するサントリー。その構図はリーダー対チャレンジャーである。強大な力を持ち、全方位で戦うリーダーに対し、チャレンジャーは徹底して差別化を図る。リーダーがやらないこと、できないことを展開するのである。
「スカッとさわやかコカ・コーラ」というキャッチコピーは実は登録商標されている。それだけに、「さわやかさ」はコカ・コーラにおいて重要なブランド資産なのである。ゆえに、「変わり種コカ・コーラ」は絶対に発売しない。そこでチャレンジャーであるペプシが差別化をかけるのだ。
本来、変わり種ペプシは「さわやか」だったり「おいしい」だったりしてはいけないのである。「ビミョー」だったり、「まずい!」だったりすることが、差別化のキモなのだ。衝撃のキューカンバーのまずさで大成功し、ブルーハワイでそれを継承。ホワイトとしそでは、ビミョー程度にトーンダウンしたが、あずきでおいしくなりだして、バオバブでついにおいしさが完成してしまった。これはいけない。
今回の「モンブラン」では、一気に本来のポジショニングに修正をかけてくる可能性が予想できる。バオバブとは打って変わってまずくなるのだ。「栗」ではなく、「モンブラン」というあたりが怪しい。あずきのような素材感ではなく、スイーツとしての甘みを極端に強調してくるのではないだろうか。もとより、変わり種のレギュレーションは、甘味料を使ったゼロ系飲料とは異なり、パンチの効いた砂糖・糖分の甘みが特徴だ。劇甘な気がする。そして、ビミョーなケミカルさも復活するかもしれない。
以上のように、筆者は「ペプシモンブランはまずいはずだ!」と予想する。しかし、その味がどうであろうと、早々とこれだけ話題にしている時点で、サントリーの戦略にはまっていることだけは間違いないのである。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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