あなたは音叉時計を知っていますか?:菅野たけしのウォッチWatch(1/2 ページ)
Accuracy(精密)とElectron(電子)を組み合わせた「アキュトロン」の名前で発表された音叉時計。時代の流れと技術革新をうまく取り込むブローバの歴史をひも解いてみましょう。
宇宙を感じられる音叉時計、ブローバ「アキュトロン」
半世紀前、時計の歴史を塗り替えた画期的なシステムを搭載した「音叉時計」が発表されたのを知っていますか。Accuracy(精密)とElectron(電子)を組み合わせた「アキュトロン」の名前で発表された音叉時計。これは、クオーツ時計が誕生する以前の1960年10月に、マックス・ヘッツェル(Max Hetzel)によって開発されました。彼は、スイスのバーゼルに生まれ1948年にビエンヌのブローバに入社した発明家です。
機械式時計にみられるぜんまいやてんぷの代わりに、チューニングフォーク(音叉)、水銀電池、電磁コイル、トランジスタ回路で駆動する、世界初のシステムを搭載した画期的な時計です。
駆動のシステムを簡単に説明すると、時計内部のコイルに電圧をかけ、音叉から発生する正確な共鳴振動(360振動/秒)によってインデックス車を回転させ運針する仕組みになります。
初代ムーブメントのCal.214に使われたインデックス車は直径2.4ミリ、厚さ0.04ミリ。この小さな部品に320もの歯を切るという精密な加工が施されています。ハイビートの機械式時計が1秒当たり8〜10振動であるのに対し、音叉時計は360振動の高振動を生みだし、日差2秒という当時としては驚愕(きょうがく)の高精度を実現しました。
機械式時計に耳を付けるとカチカチと聞こえますが、アキュトロンの場合はキィーンという電子音に似た連続音が聞こえてきます。また、あまり知られていませんが、アキュトロンはNASAが実施した46回におよぶ宇宙飛行に使用されました。
1969年7月20日には、地球へのデータ送信をコントロールする計時装置「アキュトロン・タイマー」が宇宙飛行士のニール・アームストロングとバズ・オルドリンによって月面に設置されています。
音叉機構が見えるスケルトン仕様の「スペースビュー」
アキュトロンシリーズの中でも人気が高いのがスペースビュー。音叉機構が手に取るように分かるスケルトン仕様です。
ケースデザインはラウンドタイプだけでなく、左右非対称のものやユニークケースなどが作られました。ケース素材も金無垢からステンレススチールまで豊富なバリエーションを誇ります。
右写真の時計は1964年製。裏ぶたに製造番号が刻印されており、この時計にはM4と刻印されています。「M」が1960年代を表し、次の数字が西暦の1けたを表すので1964年製造だと分かります。
初期のアキュトロンに使われたムーブメントCal.214系の特徴に、いわゆるりゅうずというものが存在しないことが挙げられます。これは、時間修正が必要ないほど正確な時計であることをアピールするためでした。
時刻調整は、ケース裏にある折りたたみ式のリングのつまみを起こし、それを回して行います。そのため、デザイン的にもスッキリ。後年登場したCal.218の時代になって、一般的なりゅうずが装着されました。
アキュトロン誕生50年を記念、待望の復刻モデル登場!
アキュトロン誕生50周年を記念した、「アキュトロン・スペースビュー」の限定復刻モデルが発売されることになりました。2010年のバーゼルワールド(時計見本市)で復刻モデルが出るという情報が流れて以来、世界中のアキュトロンファンが待ち望んでいた「Spaceview Alpha(スペースビュー・アルファ)」です。
復刻モデルの生産には、実際の製品をバラバラに分解して、ブローバに残る設計図や資料などを基に、1からすべてを作り上げたそうです。その甲斐もあって音叉ムーブメント、スケルトン文字盤など、細部に至るまで忠実に再現されました。
初代モデルと異なるのはケースサイズで、1964年製スペースビューと比べて約9ミリほどサイズアップしています。最新の腕時計トレンドを意識した、この復刻モデルのケースサイズは、いまのファッションに調和するボリューム感ある、カッコいい仕上がりを見せています。
ステンレススティールケース、カーブドサファイアガラス、4本ネジ止め式裏ぶた、蓄光仕上げの針とインデックス、30メートル防水。ケース径42ミリ、認定シリアルナンバー付き。世界1000本生産、39万9000円。
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