NHK記者が語る、“無縁社会”の正体(4/4 ページ)
2010年1月に放送され、大きな反響を呼んだNHKのドキュメンタリー企画「無縁社会」。人間関係が希薄で、孤独死が増えているというが、現場を取材をした記者はどのような現実を見てきたのだろうか。NHKの池田誠一記者の声を紹介する。
問題の出口を探すのは難しい
大田区では生活に困っている人を対象に、10万円を貸す制度を設けている。キーホルダーの持ち主はそこで4万円ほどを借りていたが、キーホルダーが見つかる1カ月ほど前に、区の担当者に「お金を返したい」と連絡してきた。そして、借りていた4万円を返済した。
生活に困っていたはずの70代の1人暮らしの男性が、なぜお金を返したのだろうか。取材を続けてみたものの、その答えは分かっていない。ただキーホルダーが見つかる2週間ほど前に、背格好や年代がよく似ている身元不明の遺体が多摩川の河口付近で発見された。その男の所持金は数十円だった――。
その男は何らかのトラブルに巻き込まれたのか。それとも自殺をしたのか。いまだに事実は分かっていない。
このことを北海道の弟さんにも伝えたが、「自分には関係ないことだ」という答えが返ってきた。なので身元不明の男の遺体が、確認できずに終わってしまった。
取材を続けていく中で「家族のつながりが薄れている」という事実が浮き彫りになった。今、この日本で何が起きているのか。どうなっているのか。処方せんのようなものがあるのか。取材を続けているものの、いまだに分からないままだ。
介護保険制度がスタートして10年以上が経過した。しかし身内に困った人がいても「介護保険を利用すればいいでしょう」「あなたたちにお任せします」などといって、行政にすべてを委ねる人が増えてきているのではないだろうか。
救急病院のソーシャルワーカーとして、30年ほど務めている人はこのように言っていた。「10年ほど前であれば、身内に厄介扱いされている人がいても、『しょうがないわね』と言って引き受けてくれる人がいた。しかし今ではそうした人がほとんどいなくなった」と。
この問題の出口を探すのは難しいかもしれない。なぜなら特効薬がないからだ。
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