なぜ中途採用者はリストラされやすいのか:吉田典史の時事日想(3/3 ページ)
労働組合を取材した筆者は、リストラされた中途採用者に多く出会った。彼らはなぜリストラされてしまったのか。その背景には会社と転職者の“誤解”があったのではないか、と筆者は説く。
“誤解”を取り除くために
では、こういった労使双方の“誤解”を取り除くためにはどうすべきなのか。その1つの案として、雇う側には次のことを試みてほしい。人事部に勤務する読者がいたら、考えてほしい。いずれも私がかつて取材し、「これはいい」と感じた施策である。
1.中途採用で求める社員の、職務遂行能力のレベル、実績などについて関係部署で念入りに話し合い、緻密(ちみつ)なすりあわせをすること。コンセンサスができない場合は、その試験を行わない
2.面接の回数や時間をこれまでの倍近くに増やすこと
3.面接官に、ベテランの実務担当者を2〜3人同席させて、職務遂行能力のレベル、実績を厳しい目で確認すること
4.内定を出すか迷った場合は、不採用とする
5.転職し、入った後の3年間は、本人やその上司との話し合いのうえ、「育成計画」を作る。3カ月ごとにその期間の結果を話し合い、次の期間にそれを生かす
6.中途採用者を囲む歓迎会などを設けて、新しく入った人が溶け込みやすいように誘う。その後も、数カ月おきに懇親会を設ける
一方で、転職希望者は求められる仕事やそのレベル、今後の待遇などについて面接時に深く話し合うべきだろう。できれば、3年後、5年後に何をするべきかも詰めたい。会社の考えがあまりにもあいまいならば、そこには行かないほうがいいのかもしれない。
入社後の態度にも“誤解”がある。例えば、「早く結果を」と焦る思いは分かるが、まずは早急に上司や実績のある社員と良好な関係を作ることである。その有効な方法は、彼らの仕事の進め方などを受け入れて、「服従」のメッセージを送ることだ。周囲は “新参者”と見ているのだから、初めは低姿勢が必要だ。
その上で上司らの警戒心を解き、業績が上がりやすい「おいしい仕事」を与えてもらえるようにしたい。そして信用を積み重ねて、早く足場を固めるべきである。上司の意向に配慮することなく、仕事をしても意味はない。評価をするのは、上司なのだから。
避けなければいけないのは、気負いのあまり「一匹狼」のようになることだ。「上司も周りも関係ない。とにかく実績を……」と考え、行動を取ると、泥沼化する。それでは、会社員の発想とは言えない。成果を出すことを急ぐならば、これまで以上に上司や実績のある社員と親しくなることを勧めたい。
「なぜ前職を辞めたのか」と考え直すことも必要だ。私は20代の頃から、機会あるごとに転職した人に会社を離れた理由を聞いているのだが、半分ほどは上司や経営陣を批判する。決して自らの非を認めない。ここまで自分を正当化しようとすると、私は「あなたにも問題がないか」と言いたくなる。実際、その後、彼らが優秀と言われるほどの活躍をしたケースはごく少数だ。
中には、部長になり貢献している人もいるが、トラブルメーカーもいるし、さえない人もいる。会社を明確な理由もなく転々としていく人すらいる。少なくとも、多くの人は上司や経営陣を批判するレベルに達していない。この人たちのようにならないためにも前職のことを振り返り、自らを知ることが大切である。そして非があるならば、正すべきではないか。それをしようとしないのも“誤解”である。
メディアも“誤解”をしている。読者である会社員の感情を逆なでしないように、こういう事実をねじ曲げて伝えることがある。「うまくいかない転職者は被害者であり、会社が悪い」というとらえ方である。中途採用が効果を発揮しないならば、それは労使双方の問題だ。会社だけに非があるように仕向けるのは、やはりいかがわしい。
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