国際会議を支える同時通訳者、その知られざる世界――浜瀬優重さん:あなたの隣のプロフェッショナル(5/5 ページ)
政府・産業界・学界を問わず、国際会議などの黒子として重要な役割を果たしている「同時通訳者」。多国間での折衝には欠かせない存在であるが、その仕事はどのようなものなのだろうか。COP15で日本政府代表の同時通訳者を務めた浜瀬優重さんにその内情をうかがった。
急速に進む「ジャパン・パッシング」、その要因とは?
しかし、浜瀬さんは「同時通訳の現場はもう卒業かな」とも思っているという。
「『ジャパン・パッシング』ということが言われて久しいですが、実際、国際会議の現場にいると、日本のプレゼンスがじりじりと低下する一方であることを痛感します。そして、その要因の1つが日本人の英語によるコミュニケーション能力の低さだと私は考えています
日本人はよく『英語を読むことはできるが、会話はできない』と言いますが、実際には読むこともちゃんとできていない人が大多数です。「英語を読める」というのは、英語の文章を日本語と同じスピードで、しかも(途中で行きつ戻りつせず)頭から読んでいって正確に理解できることを指します。しかし、それができる人はどれだけいるでしょうか? 私の知る限り、外資系企業においてすら、それができる人は少数です。
また、そうした英語を読めない人が会話だけ練習しても、ベースがないためにビジネスに必要なレベルに到達できていないのが実態です。
ある業界での話ですが、官・民・学の世界的な情報ネットワークに日本企業が一切入っていないという例があります。諸外国の有力企業は軒並み加入しているのに、日本企業だけが加入せず、要するに必要な情報を持たないまま、グローバル市場で戦っているんですね。これでは勝てるわけがありません。せめて同じ土俵で勝負しないと。加入しようとしない最大の要因も、やはり言語の壁です。そんな情報ネットワークの存在さえ知らないのではないでしょうか。
先日の出来事ですが、また別のある業界の国際的な会合終了後、東南アジアから出席した方々の言葉が忘れられません。『日本から学ぶことはもうない』。彼らはそう言ったのです。私は、英語によるコミュニケーション能力向上という面から、こうした日本の国際的プレゼンス低下の問題の解決に取り組んでいきたいと考えています」
日本の国際的プレゼンスの向上に向けて
企業経営者となった浜瀬さんは、こうしたミッションを実現する第一歩として、次のような戦略目標を掲げている。
1つは四半世紀に及ぶ同時通訳経験にもとづいて開発した独自の英語学習法(=英語を頭から理解していくサイト・トランスレーション※による「英語脳」強化法)を、eラーニングで国内に普及させていくビジネス。
もう1つはアジアなど諸外国への進出を図る中堅・中小企業に対する、対外コミュニケーションのサポート・ビジネスだ。現在、母校関西学院大学のOB・OGルートなどをたどりつつ、着実に営業活動を進めているという。
2010年度の年商は3000万円とのことで、このチャレンジはまだ始まったばかりだが、日本が国際的に地盤沈下し続けていることが誰の目にも明白な今、浜瀬さんの志は極めて重要な意義を有すると言えるのではないだろうか? 浜瀬さんの今後のご健闘と、それを通じた日本の国際的プレゼンス挽回を期待したいものである。
嶋田淑之(しまだ ひでゆき)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
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