大手新聞はどんな問題を抱えているのか――給与に“隠微な差”:烏賀陽弘道×窪田順生の“残念な新聞”(1)(4/4 ページ)
新聞が苦しんでいる。販売部数と広告収入が落ち込み、まさに“崖っぷち”だ。しかし紙面からは、新たな動きが感じられないのはなぜだろうか。そこで元朝日新聞の記者に、新聞業界が抱える問題点を語ってもらった。
朝日新聞が抱える問題
――朝日新聞はどんな問題を抱えているんでしょうか?
烏賀陽:最大の問題は、“社員純血主義”でずっとやってきたこと。朝日新聞の紙面を見ると分かるんですが、フリーランスが書いた記事は掲載されない。
『ニューヨーク・タイムズ』などを見ていると、フリーランスの記事が1面に掲載されていたりする。米国の新聞のように重要な記事なら、社員記者の記事でなくても掲載していいはずなのに、日本の新聞社はやらない。
この純血主義はまるで伝統のように守られてきている。そのためか、社員の中でフリーに対する差別意識のようなものがあります。
窪田:僕は『FRIDAY』で記者をして、朝日新聞に就職したんですが、まるで“よからぬ仕事をしてきた者”といった感じで見られていました(笑)。例えば「『FRIDAY』のときには、取材なんてしてこなかったですよね?」「新聞記事をそのまま書いたりしているんでしょ?」といったことを聞かれたりしました。
質問してきた記者は知らなかっただけで、悪意はなかったと思うんですよ。さきほど烏賀陽さんがおっしゃったように、純血主義の組織なので、雑誌記者に対する偏見のようなものがあるのかもしれない。
烏賀陽:朝日新聞の記者は大学を卒業し、すぐに就職した「朝日純血種」が多い。なので雑誌またはフリーで活躍してきた人が入ってくると、「卑賤(ひせん)なモノが嫁入りしてきた」みたいに思っちゃう(笑)。本来、できる記者がやってくれば大歓迎しなければいけないのに……。
例えば窪田さんは朝日新聞に就職して、すぐに岐阜支局に配属された。これは会社の論理で動いているだけで、いわば“資格”のようなもの。「地方支局を経験していないと社内資格不足」といった感覚があるんですよ。
窪田:ですね。
烏賀陽:だいたい記者同士の初対面の会話は「初任地はどちら?」と聞く。その背景には支局閥・本社閥のようなものがあるんですよ。人脈もそこから派生する。それは記者のスキルとは全く関係なくて、“血筋や家柄”といった「身分」のようなもの。
戦前の商家のような前近代的な発想と資本主義の給与体系がごちゃごちゃになって、隠微な差別になっていますね。
→続く。
2人のプロフィール
烏賀陽弘道(うがや・ひろみち)
1963年、京都市生まれ。1986年に京都大学経済学部を卒業し、朝日新聞社記者になる。三重県津支局、愛知県岡崎支局、名古屋本社社会部を経て、1991年から2001年まで『アエラ』編集部記者。 1992年にコロンビア大学修士課程に自費留学し、国際安全保障論(核戦略)で修士課程を修了。1998年から1999年までニューヨークに駐在。 2003年に退社しフリーランス。著書に『「朝日」ともあろうものが。 』(河出文庫)、『Jポップとは何か―巨大化する音楽産業 』(岩波新書)などがある。
窪田順生(くぼた・まさき)
1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、フライデー、朝日新聞、実話紙などを経て、現在はノンフィクションライターとして活躍するほか、企業の報道対策アドバイザーも務める。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術 』(講談社α文庫)などがある。
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