マツダが目指す「究極の内燃機関」実現の第一歩:SKYACTIVエンジン開発者に聞く(4/4 ページ)
「モーターも使わず、ガソリンエンジンだけでリッター30キロ?」――ここ数年、マツダのクルマづくりで注目を集めていた新技術「SKYACTIV TECHNOLOGY」が、いよいよデビューする。マツダのクルマづくりの哲学がどのように変化するのか? パワートレインの開発責任者の意地を見た。
さらに、思いどおりに動くようになったな
新しいデミオは、走りの部分も全体的に洗練された。試乗した人が「さらに、思いどおりに動くようになったな」と口に出すのがSKYACTIV搭載のデミオだ。
これまでのマツダ車は、アクセルをちょっと踏んだら元気よく出るというフィーリングを重視していた。こういう味付けにしてあると、ほかのクルマと乗り比べて「ああ、よく走るなあ」という感じがするからだ。
「いままでは、アクセルオン/オフで操作するような感覚があったと思います。今回からはこの部分を『自分の意志のままに』という感覚に近づけてあって、乗れば乗るほど気に入ってもらえるのではないかなと思っています。時速40キロで走ろうと思えば、アクセルの修正をほとんどすることなくピタッと収まると思いますよ」
アクセルワークも少なくなり、カーブを曲がるときのハンドルワークもなめらかになる。結果的に燃費も良くなり、運転自体も上手になったような感覚がしてくる。今後、マツダのクルマはこういう味付けで出てくるという。人見氏は「SKYACTIVエンジンは大いに貢献できたと思っています」と振り返る。
空気抵抗や転がり抵抗で失うエネルギーは回収不能
「クルマとして走りの部分がまったくダメになるようならリッター30キロなんてやりません。『マツダらしいクルマを作りましたね。よく探すとカタログの隅の方にリッター30キロって書いてありますね』ぐらいでいいんじゃないかな(笑)」
燃費の改善はエンジンだけではない。アイドリングストップ「i-stop」を搭載したことで、ストップアンドゴーの多い街乗りの燃費は大きく改善される。また、このクラスのクルマにしては珍しいボディ下の整流板(エンジンアンダーカバーなど)をはじめとして空力面を全面的に見直し、クラストップレベルのCd値0.29(空気抵抗係数、既存モデルは0.32)を実現した。
デミオのような小さなクルマでCd値を向上させるのは、すでに絞りきったものをさらに絞るようなもので、困難だったことが容易に想像できる。しかし、空気抵抗の改善はエンジンと並んでこだわった部分だったという。
「空気抵抗は、高速走行時の実用燃費の向上にも影響があり、この部分で『お、いいな』と思ってもらうためにも非常に大きな要素です。また、将来的にハイブリッドカーになったとしても、とても重要です。なぜならば、空気抵抗で失ったエネルギーは回収不能だから。グワーッと加速しても運動エネルギーならば減速中に電気に戻せます。しかし、空気抵抗やタイヤの転がり抵抗で失ったエネルギーは絶対に戻ってきません。本当の意味で燃費を良くするということは、戻ってくるエネルギーは全部回収しよう、絶対に戻ってこないエネルギーは徹底的になくそうということです」
ちらりと見えたエンジン開発者の意地
次に登場するSKYACTIV搭載車は、エンジンとトランスミッションを積んだものになるという。そして、「マツダ 勢(MINAGI)」。商品名「CX-5」を与えられたSUVは、ボディやシャシーも一新されたものになる。
「マツダの原点は、走る楽しさです。これは追求し続けます。でも、環境性能を無視して走る歓びだけを求めていたら世の中から排除されてしまうでしょう。だから、走る歓びを維持し続けるためにも、環境性能で誰からも後ろ指をさされないようにしましたし、し続けていきます。300万円のエコカー、環境にはいいかもしれませんが、懐にはまったく良くないわけです(笑) われわれはすべてのクルマに同じものを投入して、誰にでも買ってもらえるものを提供していきます。それがマツダの存在価値だと思っています」
最後に、人見氏は「リッター30にこだわったもう1つの意味」を教えてくれた。
「『エコカー』といったら電気デバイスがついていなければダメなんですか? ハイブリッドカーならリッター23キロでもエコカーで、ガソリンエンジンだったらリッター30キロでもエコカーとはいえないんですか? こういったパワートレインエンジニアの意地もあって、30という数字にはこだわりましたね」
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