なぜ被災者を受け入れたのか? 新潟県三条市の市長に聞く:相場英雄の時事日想(4/4 ページ)
東日本大震災の発生後、いち早く被災者を受けれた自治体がある。それは新潟県の中央に位置する三条市だ。なぜ三条市は被災者の受け入れを決めたのか。國定勇人(くにさだ・いさと)市長に話を聞いた。
前例がない事案
――今回の事案は前例がないはず。どのように動いたのか?
人間にサービスするのが行政であり、人間とおつき合いするのも行政だと常々考えている。大震災に接し、我々のように被災していない立場としてなにができるのかと言えば、困ったときはお互いさま、ということだ。
大洪水を経験していたからこそ、支援するという行為のハードルをもう少し低くすることができるのではないかと考えた。
県や国にうかがいを立てるということではなく、「ご恩返し」と「困ったときはお互いさま」を愚直に、迅速に実践するしかないと思った。
市長としての考えを庁議にかけたが、全く反論がなかった。「7・13」をほぼ全ての職員が経験したので、「当たり前」という雰囲気だった。
たった1日で避難所を設営できたことをほめられる機会があるが、自分たちは過去に避難所運営を経験した。加えて、中越大震災を経てそのたびに避難所運営のお手伝いに出た。避難所の設営・運営に対する躊躇(ちゅうちょ)がないし、垣根が低い。「住民票の写しをください」と同程度の感覚、ハードルの低さだ。
「お役所仕事」という言葉
「お役所仕事」という言葉がある。今さら説明する必要はないだろうが、杓子定規で、融通がきかないという意味だ。長年、中央の経済官庁の取材を経験した筆者にとって、「お役所仕事」という言葉は、保身、縄張り、足の引っ張り合いなど、ネガティブなイメージしかなかった。
今回、郷里の街を取材し、お役所仕事という言葉が持つネガティブなイメージが変わった。日頃、市民と直に接している行政体だけに、災害発生時のような非常事態ではお役所仕事は命を守る役割を担うのだ。
次回は、國定市長が抱く震災や国会、東電への率直な思いを聞く。
関連記事
- 言ってはいけない。被災した子どもに「がんばれ」と
東日本大震災が発生してから、まもなく3カ月が経とうとしている。被災者は徐々に普段の生活を取り戻しつつあるが、被災地以外の人が「がんばろう」「がんばれ」と気軽に口にしてもいいのだろうか。今回の時事日想は、激励の言葉が持つ意味合いに触れた。 - 「私も、被ばくした」――蓮池透が語る、原発労働の実態(前編)
北朝鮮による拉致問題で、メディアの前にたびたび登場した蓮池透さん。しかし彼が東京電力で、しかも福島第1原発で働いていたことを知っている人は少ないだろう。今回の大惨事を、蓮池さんはどのように見ているのか。前後編でお送りする。 - 原発ではどんな人が働いているのか? 底辺労働者の実態に迫る
福島第1原発の事故を受け、多くの人は「原発は怖い」と感じているだろう。しかし原発でどんな人が働いているのかは、あまり知られていない。原発を追い続けてきた報道写真家・樋口健二氏が、労働者の実態を明らかにした。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.