任天堂の「Wii U」は血みどろの戦いを覚悟したのか?:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
任天堂からWiiの後継機が発表された。「Wii U(ウィー・ユー)」。しかし、「斬新さがない」「画期的な機能がない」などとして、発表後に同社株価が年初来安値を更新する波乱含みの船出となっている。
3つ巴のレッドオーシャンとなった市場で勝ち抜くためには……
気になるのは、Wii Uには、ターゲットやポジショニングのぶれが垣間見えることだ。
6月9日付日本経済新聞に「戦略分析」という記事で、任天堂・岩田聡社長のインタビューが掲載されている。サブタイトルに「高性能で巻き返し」とある。記事中ではYOMIURI ON-LINE同様に、「幅広い顧客層の獲得を目指す」とある一方、「『Wii』は家族が主な顧客層だったが、新型機は高画質な映像などで、熱心なゲームファンを引きつけたい考えだ」ともある。
実際、「MS(マイクロソフト)やSCE(ソニー・コンピュータエンターテインメント)のゲーム機に比べ見劣りしていた画像の表示性能も高める」とある。WiiのポジショニングかつUSP(Unique Selling Proposition=自社独自の提供価値)は、映像の美しさではなく、「体感」できること、それを用いて「家族や仲間とワイワイ楽しめる」ということだ。
恐らく開発陣も頭を悩ませたのが、その「体感」がもはやUSPとはなり得ていない現状だろう。2010年11月に発売されたマイクロソフトの「Kinect」。Wiiがリモコンを通じて身体の動きをゲーム機本体に伝えるのに対し、ゲーム機Xboxにプレイヤーの身振り手振りや音声を検知して操作を可能にする入力端末だ。「発売してから販売台数1000万台を超えた」(6月9日付日本経済新聞)という。任天堂はWiiの性能を高め、Wii Uに進化させることで、競合とのガチンコ勝負に戻ってしまった。
任天堂「Wii U」がレッドオーシャンを戦い抜く、もしくはそこから抜けてブルーオーシャンを見つけるためには、高性能なゲーム機のプラットフォームの上で動く良質なソフトで、「誰に」「どのような体験」を提供すればいいのかを、今一度立ち止まって考えてみることが求められる。
まだ未発売なので、そこにどれだけの未知の可能性がつまっているハードウエアなのか、まだ判断がつかない部分もある。任天堂VS.マイクロソフトVS.ソニー・コンピュータエンターテインメントの3つ巴の戦いの行方を追うだけでも、頭の体操になる。
あなたが、任天堂の指揮官だったら、誰にどんな価値を提供するだろうか。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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