15%節電で首都圏企業は“我慢の節電”に――省電舎・川上光一社長:嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(5/5 ページ)
東京電力や東北電力管内における夏の「ピーク時15%節電」が始まろうとしている。企業は節電要請に対してどのように応えようとしているのか。省エネルギー・ビジネスの専業企業として、日本のパイオニア的な存在である省電舎の川上光一社長に話を聞いた。
実は存在する高い参入障壁
川上さんが指摘した内容は、国内の大企業に関する参入障壁の低さに伴う弊害で、その一方においては、参入したいができない状況も厳然と存在するのではないだろうか?
「まさにその通りです。今申し上げたことは、基本的には大企業に限定される話で、弊社のようなベンチャー企業や海外の企業から見れば、日本のこの業界の参入障壁は極めて高いのです。
大手メーカーの関心はとにかく自社製品の販売にありますから、日本の省エネルギー業界の技術水準を向上させるために、海外の最新技術動向に関心を寄せ、国内外のベンチャー企業と技術協力するなどということは滅多にありません。
一般論で言えば、国内外ベンチャーなどによるイノベーティヴな動きに対しては、排他的と言っても過言ではないでしょう。
こうした状況は業界の将来に向けてはもちろんのこと、日本の“ものづくり”というものを中長期的にとらえた場合にも、決してプラスにはならないと思います」
では、そうしたベンチャー企業の1つである省電舎が、業界で一定の立場を構築することができた要因は何だろうか?
「そうですね……」としばし思案に暮れた後、川上さんは遠慮がちに次のように答えてくれた。
「あえて申し上げるならば、業界の草分けとして長年蓄積してきた知識(技術・ノウハウ)の独自性、少数精鋭のスタッフでやってきたことによる場数(経験値)、さらには視点の相違(多くの企業とは異なり、『全体最適志向』でのトータル・デザインができること)などが、その要因と言えるでしょうか……」
来年以降も続く産業界の節電――“我慢の節電”の行方は?
これまでの歴史の中で日本の省エネルギー事業の顧客となってきた企業は、この事業をどのようにとらえてきたのだろうか? 業界創成期にはバブル崩壊があり、導入企業にとってはコスト削減こそが省エネルギーの最大のテーマだったろう。
その後、地球環境問題が世界的にクローズアップされ、日本にもエコ・ブームが到来すると、各企業は省エネルギーを折から盛り上がってきたCSR(=企業の社会的責任)ブームと結びつけて考えるようになった。
そして、東日本大震災(とそれに伴う福島第1原発事故)を経た今、各企業は、省エネルギーを節電にフォーカスしてとらえている。それも、就業環境や安全面の悪化には目をつぶった“我慢の節電”という形で。同じ「省エネルギー」というキーワードでも、そのとらえ方は環境変化の中で刻々と変化していっている。
しかし、省電舎が取り組む姿勢は、首尾一貫してブレることはない。地球環境を守るという目的を実現する手段として、企業などの施設や建物で省エネルギーを推進しつつも、就業環境や顧客たちの安全性など、周辺環境を悪化させないことを基本にしている。
「日本の産業界における節電の取り組みは、今夏だけで終わることなく向こう2〜3年は続く」と川上さんは指摘する。
とはいえ、人間の生理や基本的欲求に反する“我慢の節電”には、やはり限界があるだろう。いずれ遠からず、省エネルギーの本来あるべき方向性での、すなわち、省電舎が一貫して追求している方向での節電が志向されるのではないだろうか? 少なくとも、そう信じたいものであるが、現実は果たしてどうなるだろうか?
嶋田淑之(しまだ ひでゆき)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
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