10万缶の“パンの缶詰”を被災地へ、パン・アキモトの支援活動とは(前編):嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(5/5 ページ)
保存食なのにふわっとおいしい――2010年のハイチ大地震のとき、子どもたちが「こんなにおいしいパンを食べたのは生まれて初めて」と喜んでいたのがパン・アキモトの「パンの缶詰」だった。東日本大震災発生後、社長の秋元氏は自社も被災していたにもかかわらず、現地へ10万缶のパンを送っている。秋元氏が考える、保存食によるソーシャルビジネスとは?
震災が変えた日本人の意識
東日本大震災と福島第1原発の事故を通じて、被災地以外に住む日本人にとっても大災害はもはや他人事ではなくなった。3〜4月、首都圏を中心に生活用品の買い占め騒動が発生し、それが各地に広がるなど一部にエゴイスティックな動きも見られたが、国民の間で災害に対する当事者意識が強まったことは間違いない。
そうした日本全体の意識変容を背景に、パン・アキモトに対して、徐々にではあるが被災地以外からの追い風が吹き始めたようだ。
「名古屋の金城学院(1889年創立のミッションスクールで、中学校から大学までの女子一貫校)の高校の校長先生から申し出があり、同校の救缶鳥プロジェクトへの参加が決まりました。お陰さまですでにパンの缶詰も納入済みです。
また、来年以降に関しても、生徒が入学する時点で1人2缶購入してもらうことになりました。災害発生時には1缶を自分用に用い、2缶目は避難してきた近隣の方などに分けて差し上げるということですね。缶のラベルは生徒の代表がデザインしたオリジナルラベルとしました。
回収の時期は通常2年ですが、高校は3年サイクルで入学・卒業するので、その点を考慮して3年で回収することにしました。ただ、賞味期限が3年1カ月なので、3年経過してから回収したのでは海外災害支援に間に合いません。そこで金城学院のケースでは、缶にサビが出ないよう特別な加工を施して、賞味期限を3年3カ月に延ばせるようにしてあります」
今回の東日本大震災でもそうだったが、学校は多くの場合、大災害発生時の避難所になる。そういう意味でも、学校にパンの缶詰が備蓄されることの意義は大きいだろう。金城学院を皮切りに、救缶鳥プロジェクト導入の動きは大阪女学院、フェリス女学院など、ミッション系の女子一貫校で広がりを見せているという。
パン・アキモトの創業者(秋元さんの父)が熱心なクリスチャンだったこと、そして救缶鳥プロジェクトの原点が阪神・淡路大震災における神戸の教会支援にあったこと(後編で詳述)を想起すると、こうした動きは秋元さんにとっても感慨深いものがあるのではないだろうか?
「そうですね。全国のミッションスクールに救缶鳥プロジェクトが波及していくと良いなあと思います」
パンの缶詰という独創的な商品を通じて、大震災などの非常時においしいパンでお腹も心もいっぱいにしてくれるパン・アキモト。そして、幸いにして災害が発生しない場合には、海外の飢餓地帯や被災地にそれを送って、多くの人々の命を救い、生きる勇気を与えるなど、地方都市の中小企業ながら立派に国際貢献を成し遂げているパン・アキモト。
パンの缶詰と救缶鳥プロジェクト――これらは一体、どのような紆余曲折を経て、創出されたのだろうか? 後編ではその生成過程を明らかにしたいと思う。そして、秋元さんとパン・アキモトが今、どこに向かおうとしているのか、その展望についても触れたい。
→後編へ
嶋田淑之(しまだ ひでゆき)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
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