付録付き雑誌バブル崩壊! 今後どうする?:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
有名ブランドのバッグなどが付録に付いた……というより、バッグに雑誌が付いているような形態の女性誌の売り上げがついに減速してきたという。その気になる原因と打開策を考えてみたい。
コンテンツにも一縷の望みはあるも、やはり付録頼みは続く
出版関係の仕事に長年携わっている人間、特にかつて、雑誌が人々の欲望を駆り立て、ファッションにしろ、ライフスタイルにしろ、バイブルのように消費された時代(アンノン族やPOPEYE、ホットドッグ・プレスなど……)を知る人間にとっては、「今の編集者の力が落ちた」と、日経のようにコンテンツ寄りの見方をするのかもしれない。
「力のある編集者が育てば雑誌は売れる」と楽観視する声がいまだに聞こえるのも事実だが、時代は大きく変わったことも認識したい。インターネットの登場で、個々の情報ニーズをピンポイントで満たすことが可能になった。その道のプロやその土地の人でしか知りえない情報が、いとも簡単に手に入る(ググる能力が必要)。
背景には、個々人が帰属意識を持つトライブの細分化という事情がある。雑誌だけではなく、CD、ゲーム、すべてが売れ行きを落としている。マスに向けたマーケティングが意味を失い、個々のトライブに向けた発信がメインになったのだ(とはいえ、多くの雑誌を愛読する筆者としては、トライブのタコツボを串刺しするような力のあるコンテンツにも希望を持っている。「AKB48」や「もしドラ」など広く消費される実例が、少ないとはいえ、存在する)。
「読者」「消費者」と市場を一律に見ることを改める時期にきているのだと考えている。その意味では、付録に対する市場全体としての「飽き」は否めないが、「地方需要」は確かにあるだろう。なぜ、地方なのか。それは、都市部ほど簡単にブランドものやオシャレなものに触れる環境にないからだ。それが、近所の書店やコンビニで手に入れられる。その新たな流通チャネルとしての役割に対する支持はまだ続くだろう。
具体的に考えてみよう。ターゲティング・ポジショニング・4Pをきちんと整合させて考えることがポイントだ。
ターゲット
地方在住でオシャレ感度が高いが、都市部までなかなか出られない層。属性でいうと、時間的余裕が少ない主婦層がメインターゲットとなるか。
ポジショニング
ちょっとしたお出かけ時に持ち歩けるオシャレグッズ。それが、最寄りの書店やコンビニで手に入るという利便性と、ブランドもの所有の自己満足の充足を提供してくれる存在。
商品
雑誌の付録形態。但し、現在の「ただの袋物にロゴを入れただけ」ではなく、実体としての質感を向上させるなり、付随機能としての便利な機能を付加するなりの価値向上が必要。
価格
現在より規模化できないため、価格は上がらざるを得ない。また、価値向上も価格上げ要素。Customer Valueの上限いっぱいを見据えてプライシングが必要。ギリギリ2000円未満か。
販路
書店及びコンビニに専用什器を設置。特にコンビニは客単価向上に貢献してくれる商品を優遇するため、有望なチャネル。(チャネルのニーズとの整合)
販促
店内POPや販売事前告知チラシ。
最後に、まだまだ付録の支持が得られるという証左に消費者の声も紹介しよう。筆者と同年代の本家バブル世代の女性だ。「最近は向井くん表紙のMEN's non-noにビーサンが付録についていたのを本屋で見つけ買いました。喫茶店で25ansの次号付録に英国妃愛用のYSLの特製スカーフが付くことを知ったので25ansの来月号は買うつもりです」。ターゲットは地方・都市部というエリアだけでなく、年代というセグメントの属性ももう一度見直すことも再活性化のポイントであると考えられる。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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