事業継続計画は誰のために必要なのか?(1/2 ページ)
3月11日に起こった東日本大震災で、東北地方は大きな被害を受けた。事業を停止した企業も多くあるような状況を前に、事業継続計画を作成する意味はあるのだろうかと筆者は疑問をていする。
著者プロフィール:荒川大(あらかわ・ひろし)
株式会社ENNA代表取締役。「人的リスクマネジメント」をキーワードとして、内部統制対応の人事コンサルティング、IT統制対応の人材派遣、メンタルヘルスのカウンセリングを提供している。
BCP(事業継続計画)というフレーズは、最近の新聞・雑誌・WEBサイトやIT関連企業の新規サービスでとても多く目にするキーワードとなりました。
私の会社も、2009年の新型インフルエンザ発生前からBCP(事業継続計画)策定の必要性を訴えてきていますが、正直、事業の中核にはならない程度のものでしかありません。
もともと日本経済において「リスクマネジメント」はもうからないものなので、あまり気にしても仕方ないのですが、損害保険のオプションやITソリューションの一部のような位置付けにあること自体には疑問を持っています。
BCPの前にリスクマネジメントについて考える
一般的にはBRM(ビジネスリスクマネジメント)という考え方があり、災害対策だけではなく、事業を継続する上で企業が抱えるリスクというものが広範に知られています。今の円高や情報漏洩、社内での不正行為などすべてが経営上のリスクであり、それらに対応することが事業継続の上でとても重要であるとされています。
当社で提供しているコンプライアンスやガバナンスの取り組みも、日本国の法令に対応する組織とルールが明文化され、社内で共有されているかという点を確認し、是正していく支援なので、災害だけに関心があるわけではなく、外部環境からのインパクトだけではなく事業運営上のあらゆるリスクを回避するための取り組みとしています。
では、BCPとはどのような位置付けにあるものなのでしょうか。
BCPの有効性は「被害想定」次第
「BCPを策定したい」と相談いただく企業各社には、まずBRMの理解をお願いしています。BCPをいきなり策定しても時間がかかるだけで、得るものは「冊子」と「避難訓練」、そしてわずかながらの「備蓄品」しかありません。それらの本当の必要性を理解していただくために「リスクマネジメント」そのものを理解していただくようにとお願いしています。
加えて、東北地方の被災状況を見る限り、また3月中旬に被災地に支援物資を持って帰省し見てきた光景からして、BCP(事業継続計画)の策定を支援している私自身が、BCPに懐疑的になっていることもあり、事業を継続するということそのものの意味を考える必要があるのではないかと考えています。
そもそも、BCPで重要になるのは「被害想定」です。BRMから考えても良いのですが、さまざまなリスクが存在していると仮定して、それが会社事業にどれだけの影響を与えるものなのかを考えておかなければ、対策の立てようもありません。
今回の地震被害については、M9.0という地震は発生しないというところがスタートラインですので、その範囲内での災害対策を計画したところで発動できないという事態になっています。
逆に、次の直下型地震は東京都立川市を震源にしたものか、三浦半島を震源にしたものになるのではないかという報告(政府「地震調査委員会」発表)がありますし、東南海地震が連鎖的に発生すれば津波の高さが20メートル級ということで、対策の取りようがないのではないかという発表もされています。「被害想定」がそもそも事業継続できないレベルとなってしまえば、BCPにおける災害対策は無意味なものになってしまいます。
以上の点から、BCPにお金をかけることに意味や意義を見出す経営者というのが減っていくことが考えられます。
会社がなくなる、顧客もいなくなることが想定されるような「被害想定」に基づいて、事業を継続することに意味はないと考えるのが普通だと思います。
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