“楽園思想”が受け入れられなくなった!? 『水戸黄門』打ち切りのワケ:郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)
1969年の放映開始から42年も続き、今年12月ついに終了するTBSドラマ『水戸黄門』。長寿番組が打ち切りとなった背景には、消費者のどんな変化があったのだろうか。
芝居をするな
初代黄門役の故・東野英治郎さんは、ハナっから『水戸黄門』を永続番組、ライフワークにしようと考えていた。だが当初の1〜2年は試行錯誤で、永続するまでの要素が見つからなかった。「このままでは打ち切りだ……」と悩んだ彼が考えたのは「芝居をするな」だった。
時代劇は侍が出てきて斬った張ったし、お殿さまが謀略を尽くして敵を打ち破る。家臣が恥辱にまみれた主君の恨みを晴らす。侍はみんな眉を上げてすごみ、斬り掛かり、うなる。ともに戦う女たちは泣きながら支え、健気に戦う。歌舞伎の舞台の延長線が時代劇だから、侍クサく演技また演技なのである。
だが、東野さんは「長く続けるには芝居をしていたら飽きられる」と考えて、芝居ではなくシーンのパターン化を図ろうとした。現代劇にある自然な演技をみんなに命じた。そこから生まれたのが宙返りや入浴シーン、うっかり八兵衛のドジ、そして印籠だった。あの黄門サマの笑い、「カッカッカッカッ……」の完成には3年かけたという。
ワンパターンでも情感に刺されば嫌われない。『男はつらいよ』も『こち亀』も超ワンパターン。悪漢小説にも恋愛小説にも型があるし、好きな歌手の歌は何度聴いてもじんとくる。芝居は飽きられるが、心のツボにハマるシーンは飽きられない。
さらに『水戸黄門』はディスカバー・ジャパン、日本再発見の旅でもあった。車窓の風景であり旨いもの紀行であった。そこに村おこし、赤字や失政の悪漢退治という地方再生の希望があった。日本列島改造の時代ニーズにも合っていた。
楽園物語はすたれない
「芝居をするな」は、リアリズムの小津安二郎監督の映画で演技を鍛えた東野英治郎さんだからこそ。私は東野英治郎さんの仕掛けた巧妙な現代劇プロットが、彼の降板(1982年)以降薄れ、番組が芝居がかってきたのが視聴率低下のワケだと思う。東野黄門の降板までは平均30%超、その後は低落の一途だった。私もそのころから流し目しなくなった。
だから、時代劇はダメになっていない。『JIN-仁-』は、主人公の南方仁医師が幕末にタイムスリップし歴史を変える医療を施す。現代につながる人間模様と、医術と医療が混じる手術シーンがウケた。 F1層(20〜34歳女性)やF2層(35〜49歳女性)の時代劇ファンを増やした。そのキャッチコピーは「誰もが笑った 輝いた あの江戸へ」。水戸黄門の楽園思想と同じじゃないか。
楽園物語はすたれない。人は生を受けた時から死に向かって歩むが、最後の日まで光を求めて生きるからだ。いみじくも南方仁医師は言う。「神は乗り越えられる試練しか与えない」。水戸黄門は「人生楽ありゃ苦もあるさ」。
水戸黄門も「演じない芝居」の原点に返れば復活できる、と思ったのだが、そうはいかなかった。墓の下から東野英治郎さんの「カッカッカッカッ……」という笑い声が響いてくるようである。
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