食事をし、交通費をもらう……“ごっつぁん記者”なんていらない:相場英雄の時事日想(2/2 ページ)
「あご足付き」という言葉がある。スポンサーから食事や交通費などを提供される“おいしい仕事”を指す隠語だが、実はマスコミでも使われている。しかし、この「あご足付き取材」を全廃しなければ、国民からの信頼は得られないのではないだろうか。
筆が鈍って当たり前
あご足取材を積極的に企画するのは、先に触れた外資系企業だけではない。自動車や電機、食品など、業種は多岐にわたる。
この中には、現在企業としてのモラルが問われている電力会社も含まれている。特に、原発見学取材では「高級温泉宿や豪華な料理が供された」(別の大手紙)。
多くの電力会社の場合、新聞、テレビだけでなく、週刊誌の記者や編集者も“あご足取材”の対象者となり、囲い込まれていた。
原発関連施設の取材のあとは「ゴルフ場でのコンペが頻繁に開催された」(大手誌副編集長)。賢明な読者なら既に理解していただけたと思うが、「原発施設の取材よりもコンペが目的」なのだ。もちろん、コンペには豪華な景品が用意されていたのは言うまでもない。
東京電力の福島第1原発事故に際し、大手メディアの対応が“東電寄り”だとして、多くの読者や視聴者から批判された背後には、「あご足付き取材」の悪しき慣習があったのは間違いない。換言すれば、筆が鈍って当たり前なのだ。
現在、主要マスコミは売り上げ減に苦しみ、取材経費の削減に追われている。企業から、交通費や宿泊費、はては食費まで提供される取材ツアーがあれば、喜んで参加する下地が整っているとも言える。
最新設備が整った大工場、あるいは画期的な新製品ならば、マスコミ側が取材コストをまかなってもニュースにする価値がある。取材経費はマスコミ側が負担しなければ、記事の公正さは担保されないはずだ。
現役の記者時代、筆者が社会部記者とコンビで取材する際、彼らから頻繁にこんな言葉でなじられた。「経済部や産業部は取材先とべったりすぎる」。
企業の内部に飛び込まなければネタをつかめないと説明したが、社会部記者たちはあご足取材を強く否定していた。筆者自身、こうしたツアーに参加したことはないが、周囲や上司にごっつぁん組が多数存在したことから、真っ向否定できなかったことを鮮明に記憶している。
さまざまな企業や業界の不正が暴かれ、マスコミとの癒着が明らかになる中、「あご足取材」を全廃、自浄作用を試みなければ、メディア界への信頼回復は果たせない。
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