“会見外バトル”を見て、記者は萎縮してはいけない:相場英雄の時事日想(3/3 ページ)
大手新聞社の記者とフリージャーナリストらが、記者会見のあり方を巡って“紛糾”した。ネットで生中継されたこともあり、多くの視聴者は驚いたようだが、会見の席では珍しいことではないのだ。
怒らない記者の危険
記者会見の可視化により、一般の読者や視聴者の知る機会が増えたことは歓迎すべきことだ。今まで傍若無人に振る舞ってきた一部の記者が批判にさらされることも当然の成り行きだろう。ただ、先に触れたような“萎縮した記者”が増えるのは健全ではない。
筆者が荒れた会見の数々を経験してきた中でも、もの静かながらも鋭い質問で企業や個人をやりこめた名記者はたくさん存在した。読者の代表という立場を理解し、常識の範囲内で不正や不祥事を追及する姿勢がブレなければ、会見が可視化されようが問題など一切ないはずなのだ。
最後に筆者が経験した荒れた会見の1つを紹介する。
1997年4月、当時の日産生命が保険会社として戦後初の経営破たんに追い込まれた。
「戦後初」「大蔵省による業務停止命令」「債務超過」など、記者の頭に血が上るようなキーワードがいくつもあったことから、案の定、会見は荒れた。
会見では、ずさんな業務を続けた経営陣、当時の大蔵省が債務超過状態を認識しつつ、これを隠ぺいしてきた姿勢を問う荒っぽい言葉が飛び交った。会見の終盤にさしかかり、筆者の隣にいた同僚記者が放ったひと言が会見場の空気を一変させた。
「内部で債務超過を把握していながら、顧客には通常の営業活動を行ってきたのか?」
「決算の内情を隠しながら、新規契約を取っていた経営責任は?」
同僚の質問の主旨は「行政も会社も問題外。あんたたちは詐欺行為を行っていたんだ。だまされて契約した顧客の身になってみろ」というもの。
もちろん、同僚も頭に血が上っていた。顔は紅潮し、声も上ずっていた。しかし、この質問の前までは想定問答に目を通し、しどろもどろながらも会見をこなしてきた経営陣がしばし絶句した。同時に、会見者が涙を流し始めた。
会社の存続問題や行政とのやりとりばかりに気を取られ、肝心の「顧客」という存在がすっぽりと抜け落ちていたことが、同僚記者の質問によって明らかになったからだ。
インターネットの記者会見の可視化により、今後このようなやりとりに注目が集まっていくことを筆者は切に期待する。
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