スクリーン数減少中、映画館の運営をどうすべきか?:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
映画館のスクリーン数が減っている。シネコンの台頭により増加を続けていたが、18年ぶりに減少に転じたという。原因は、スクリーン数5未満の一般の映画館の閉館が進む一方、シネコンの出店好立地がなくなってきたためだという。
800円ぐらいだったら見に行くのに……
発想としては、飛行機と同じ。映画館でも、早割同様に前売りで割引が実施されているが、そこをもっと精緻にやっていく余地はあるだろう。LCC(低価格航空会社)は早いほど席は安く、直前ほど高くなるという細かな料金設定をしている。大雑把な料金や割引制度の見直しをすぐにでも検討した方がいい。
例えば、今なら「前売り券800円」と売り出したらどうだろうか。予告編で気になった時に、即座に購入する確率が格段に高まるだろう。確実に次のチケットを買わせる工夫が必要だ。現状の“置いてあるだけ”は論外である。
そうなると、「売上=客数×客単価×リピート率」という基本から考えれば、客単価が下がることが当然懸念される。昨今では、3Dのプレミアム価格によって、客単価が上昇していることが、映画館の売上増にもつながっている面がある。
筆者は前売り券の安さはリピート率の向上である程度カバーできるのではないかと考えているが、それに加えて、クロスセリング(関連商品の販売)を導入し、客単価の向上も目指したらいい。
ここで参考になるのが、音楽業界の動きだ。音楽業界ではコンサートの動員数が、1998年の1430万人から、2010年には2618万人と倍増に近い勢いで増えており、各社はチケットの売り上げそのものよりも、マーチャンダイジングの売り上げを当て込んでいる。8000円前後の入場券だけでなく、ペンライト1000円、ツアーTシャツ2000円と、顧客のアーティストへのロイヤルティが高いほど、飛ぶように売れていく。
一方、映画関連グッズ販売は、アニメや特撮ヒーローものぐらいしか力を入れてやっていないのではないか。メーカーはお金を払ってまでプロダクトプレイスメント(劇中商品PR)をやりたがっているのだから、「劇中で使っていた商品の即売」など、もっと積極的な関連商品の販売(お取り寄せでもいい)で収益を上げるべきではないか。
筆者は映画が好きだ。あるシネコン隣接の分譲マンションが「ずっと映画館に住みたいと思っていた」というキャッチコピーで、なんとジャン・レノ(←現在ドラえもん)を起用した広告を展開した時、激しく同意したものだった。
日経の記事には(昨今の映画の興行成績好況は)「シネコン増加にともなうスクリーン数の増加に支えられてきた面も無視できない。スクリーン数の減少が続けば興行収入も大きな伸びが期待できなくなりそうだ」とある。中・長期的にはまた、映画産業の衰退につながってしまう。それでは困る。規模の増大が見込めないのであれば、単館あたりの売上・利益の向上を図るしかないのだ。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。Facebookでもいろいろ発言しています。
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