なぜドイツは製造業が強いのか――歴史を振り返る:松田雅央の時事日想(3/4 ページ)
EUはユーロ危機に大きく揺れているが、そんな状況でも2011年ドイツの経済成長率は3%近くに達した。今回の時事日想は「ドイツ博物館」を紹介しながら、ドイツ経済の強さの秘密に迫ってみた。
産業構造の移り変わりを反映
本来、ドイツ博物館は1910年頃の開館を予定していたが、インフレと第一次世界大戦勃発の影響で1925年まで大幅に遅れてしまった。1906年の起工式にはドイツ皇帝ヴィルヘルム2世やバイエルン王国皇太子らが参列している。
ドイツ博物館の建設と19世紀の産業革命は密接に関係する。
産業革命は安い賃金で過酷な労働を強いられる労働者階級を生み出し、貧困、公害、労働者の健康被害といった社会問題を引き起こした。これらの改善と解消を目指して誕生したのが社会主義思想だったが、ドイツ帝国にとって社会主義の台頭は都合が悪い。そこで労働環境改善のための対策が進められ、労働衛生と産業に関する博物館の建設がブームとなった。
ドイツ博物館の場合は労働衛生と直接の関係はないが、鉱業、船舶、機械、航空、薬学まで50テーマを網羅する科学・技術・産業系の博物館として建設された。科学技術を若い世代に学ばせ発展させることを目的のひとつとし、体験型博物館のさきがけとして今日でも世界を代表する質と量を誇っている。収蔵品は約2万8000点、年間の来場者数は約150万人にのぼる。
一般来場者向けのガイドツアーはもちろん、実験の実演、体験教室といったプログラムも充実し、大人から子供まで楽しめる工夫もされている。子供連れの家族が多く、ベビーカーを押す若い家族の姿も目立つ。幼児向けの展示はないが、こんな様子にも、ものづくりが大好きな国民性が現れているように思える。
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